損害保険大手4社による保険契約者の個人情報漏洩が250万件に上ることが30日、分かった。代理店への出向者が損保の依頼に応じて情報を流用する事例が判明するなど、法令順守意識の薄さが浮き彫りになった。大手全社が大量の契約者情報を漏洩する異例の事態を受け、金融庁は組織的関与の有無などを精査する。

損保大手では昨年、企業向け保険料の事前調整問題や旧ビッグモーターによる保険金不正請求問題が発覚した。業界の不適切な慣行が再び明らかになり、各社のガバナンス(企業統治)が厳しく問われることになる。

「出向元である当社への貢献度を人事評価に織り込んでいた実態があった」。99万件の情報漏洩が判明した損害保険ジャパンは、発生理由の一つに「出向元への貢献度」を挙げた。約12万6千件が出向者が関与した案件だったが、これらの案件を代理店ごとに分析すると50%が「自社のシェアや他社の動向を把握するため」、11%が「他社契約の自社への切り替えや追加提案を推進するため」だった。漏洩が営業推進目的で、組織的に実施された疑いがぬぐえない内容だ。

出向者が関与した事例が約10万件見つかった東京海上日動火災保険でも出向元の部署が契約の切り替えを目的に、情報提供を依頼した事案があった。同社の出向社員は、出向先となる代理店を担当する営業部店から送り込んでいた。出向社員の人事評価は出向元が行う仕組みだったため、出向元の営業数字に貢献するため情報を持ち出した。損保側も出向者を送り込めば他社の契約者情報が得やすいとの安易な期待を抱いた。

背景には保険契約のシェアの増減を過度に重視する企業文化がある。損保各社は営業担当者が他社の保険契約者を獲得してきた場合、高く評価してきた。とりわけ銀行系代理店の場合、火災保険など複数の商品を扱うため、正確なシェアがわかりづらい。そこで出向者が出向先の代理店で得た情報を契約者に断ることなく、出向元の損保に還流し、市場シェアを把握して競い合っていた。

東京海上日動は30日に公表した文書の中で「競合他社に勝つこと自体が目的化していた」と分析した上で、「他社情報の取得方法・手段の適法性・妥当性に意識が及んでいなかった」と説明した。

金融庁は4社の報告を受けて、今後情報漏洩への組織的関与や悪質性の検証を進める。出向社員による情報還流は大規模かつ長年続いており、本社の担当部門や幹部の指示に基づき、契約者情報を漏洩させ、営業活動に流用していた可能性も視野に調査を進める。経営陣がこうした不適切な慣行をどこまで認識していたかや、どこまで組織的に漏洩行為がされてきたかなどが焦点となる。仮に組織性や悪質性が認定されれば、業務改善命令の発動も検討するとみられる。

昨年発覚した企業向け保険料の事前調整問題や旧ビッグモーターによる保険金不正請求問題では、企業への過剰な営業支援や代理店への不適切な便宜供与が問題視された。事前調整問題では金融庁から大手4社が業務改善命令を受けたほか、公正取引委員会も大手4社に総額で20億円を超える課徴金の納付を命じる見通しだ。各社は2つの不祥事を受け、ガバナンスの改善策を発表したが、再びガバナンスの不全が明るみに出た。

損保4社から代理店に出向する社員は合計で2000人規模に上っており、今回はその一部が情報漏洩に関与していた。大手損保は適切な情報管理体制をつくるなどの再発防止策を求められる見通しだ。各社の調査期間や対象はばらばらで、今後の調査によって漏洩件数がさらに膨らむ可能性もある。

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