(ブルームバーグ):日本企業による自社株買いは、過去10年以上にわたり日本銀行が担ってきた日本株の急落時に相場を守るゲートキーパーの役割を果たしつつある。

日本取引所グループ(JPX)が毎週公表する投資部門別売買状況によると、日経平均株価が過去最大の下げ幅を記録した5日を含む8月第1週(5-9日)に事業法人は日本株の現物を差し引き5060億円買い越した。買越額は2015年12月以来、8年8カ月ぶりの高水準だ。

T&Dアセットマネジメントの浪岡宏チーフ・ストラテジストは、企業が自社株買いの設定枠を埋めていく中で「株価があれだけ安くなれば、買いたくなるだろう」と指摘。昨春以降、JPXが上場企業に対し資本コストや株価を意識した経営の実現を求めている影響がある上、相場の下落時に企業が株式を買う傾向も強く、「自社株買いがマーケットを下支えする効果は多分にある」との認識を示した。

日銀が追加利上げを決める一方、米国景気の先行き不安が強まったことで日米金利差が縮小し、為替が円高に振れたことなどが嫌気された8月第1週は海外投資家が現物と先物を合わせ日本株を7772億円売り越した。5日の東証株価指数(TOPIX)が1日で12%以上も下げたのに対し、週間での下落率は2.1%にとどまっており、企業の自社株買いが相場を下支えする一因となった。

直近で日本株が急落した局面は新型コロナウイルスの流行が始まった20年2月から4月にあり、3月第2週にTOPIXが14%、4月第1週に9.2%下げた際に日銀は指数連動型上場投資信託(ETF)を約4000億円、4400億円それぞれ買い越した。今回の事業法人の週間買越額はこれらを上回る。日銀は今年3月にマイナス金利政策を廃止し、17年ぶりの利上げに踏み切ると同時にETFの新規買い入れをやめた。

SMBC信託銀行の山口真弘シニアマーケットアナリストは、買いの主体が「日銀から企業にバトンタッチし、株式市場の需給という意味では構造は良くなっている」と見る。事業法人の買いは、日本株の水準を底上げしており、「主体の一つとして大きな役割を担っているのではないか」と述べた。

一方、外国為替市場で一段と円高が進むことは時価総額の大きいグローバル企業にとって収益の悪化やキャッシュフローの縮小につながる可能性があり、継続的に自社株買いを実施できるかどうかという点でリスクだ。日銀が6月に調査した企業の短期経済観測調査(短観)によると、全規模・全産業の24年度想定為替レートは1ドル=144円77銭。28日午前8時過ぎ時点は143円台後半で推移している。

ただ、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の大西耕平上席投資戦略研究員は、JPXが企業に資本効率の改善を促していることを背景に、「最初にやりやすいのは株主還元だ」と分析。自社株買いも「当面はまだ増えていくだろう」と予想した。

--取材協力:横山桃花.

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