地価上昇や都市再開発などで企業の不動産含み益は最高に(東京駅周辺)
【この記事のポイント】
・上場企業の不動産含み益、過去最高の29兆円
・地価上昇や首都圏再開発の効果が大きく
・東京ガスなど、資本効率の向上へ不動産売却を検討

上場企業が保有する不動産の含み益が2023年度に前の年度比7%増の約29兆円と、開示が義務になった09年度以降で最大になった。東京ガスや東洋製缶グループホールディングス(GHD)など、資本効率の向上へ不動産の売却を検討する企業が増えている。現預金や政策保有株などに続く「眠る資産」として株式市場の注目を集めている。

日本経済新聞がQUICKのデータを基に、賃貸など向け不動産の簿価と時価を開示する約830社を集計した。不動産の時価から簿価を差し引いた含み益は23年度に前の年度比7%(約1.8兆円)増えた。含み益を算出した対象企業は異なるが、10年前と単純比較すると約2.4倍に膨らんだ。

地価の上昇や不動産大手などによる首都圏の再開発の効果が大きい。不動産を本業としない企業が事業の多角化を狙って不動産投資を拡大したことも背景にある。

含み益が最も大きいのは三菱地所で4兆8499億円だった。住友不動産と三井不動産を合わせた不動産大手3社で計12兆2138億円と全体の4割強に上る。このほか東京建物(5294億円)や東急不動産ホールディングス(4084億円)も大きい。

不動産以外の業種の含み益は合計14兆円超と、全体の5割弱を占めた。10年前比で2倍になった。鉄道や小売り、建設などの業種が大きい。JR東日本は1兆6232億円、イオンは5231億円、鹿島は2516億円の含み益がある。

賃貸物件などの不動産は安定的な収益源となる一方、収益性が低い場合は資本効率を押し下げる。これまで企業は保守的な財務運営のもと、不動産売却などには消極的だった。含み益を考慮すると株価が割安な企業は多い。

足元では風向きが変わる兆しが出ている。東京証券取引所が23年に「資本コストや株価を意識した経営」を要請し、企業は自社が投資家の期待リターンを上回る収益をあげられているか意識を高めるようになった。

大手運用会社のファンドマネジャーは「企業による不動産含み益の実現に、現実味が出てきた」と話す。

実際に含み益を積極的に実現しようとする動きが出てきた。代表的なのが不動産大手だ。三井不動産は今後3年で販売用を含む不動産や有価証券などの売却で約2兆円を回収する。

野村不動産ホールディングスは株主還元や資本効率向上のために保有ビルを売却してきた。国内金利の先高観があるなかでも「企業年金や生命・損害保険、地方銀行など(不動産への資金の出し手となる)機関投資家のニーズは強い」(同社)とする。

他業種でも動きがある。ゴールドマン・サックス証券のブルース・カーク日本株チーフストラテジストは、本業以外で不動産部門をもつ企業が「非中核資産の再編と含み益の実現を求める株主の圧力に直面している可能性がある」と指摘する。

サッポロホールディングスは物言う株主から圧力を受けて13日に不動産事業の買収案などを募集すると発表した。

東京ガスは賃貸不動産の含み益が4500億円弱(簿価で1300億円強)ある。自社グループ内で使うオフィスなどの不動産も簿価ベースで1500億円規模あるとみられる。資産効率の観点から今後の保有方針を精査し、売却も含めて検討する。売却で得た資金は海外事業や脱炭素などへの投資に充てる。

西武ホールディングスは含み益3300億円強の不動産や含み益が非開示のホテル資産などについて、聖域を設けずに流動化することを検討する。抱える不動産を、25年3月期中に設立予定の運用会社で運用する私募ファンドなどに売却して流動化する計画だ。売却資金の使途は都心再開発やM&A(合併・買収)などが中心で、自社株買いも選択肢になる。

オフィスや商業ビルなどで1200億円超の含み益を抱える東洋製缶GHDは、物件の利回りなどを踏まえて売却や用途変更などを検討。25年3月期から実行に移す。

東証の改革要請から1年以上がたった。今後は企業のバランスシート改革や事業再編、成長投資などの進捗や成果が一層問われる局面に入っていく。取り組みの一環として不動産含み益を活用する動きが広がる可能性がある。

(堤健太郎)

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