(ブルームバーグ):パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は来週、ワイオミング州ジャクソンホールで開催される年次シンポジウムで講演する。連邦公開市場委員会(FOMC)が9月会合で政策金利をどうするのか、人々はそのヒントを求めて熱心に耳を傾けるだろう。

そして、恐らく失望するだろう。それでも、金融政策の将来について、金融当局者が取り上げることができ、また取り上げるべき重要な問題はたくさんある。

パウエル議長は物価の安定(インフレ率2%と定義)と持続可能な雇用の最大化という二大責務に向けて前進してきたことを強調すると、筆者は予想する。この二大責務のバランスがより均衡してきており、金融引き締めはもはや正当化されないと示唆する可能性が高い。しかし、9月の実施がほぼ確実視されている最初の利下げについて、その規模を示唆するような発言があれば驚きだ。その場合、雇用統計などこれからさらに経済指標が発表されることを考えると、FOMCを不必要に前のめりにさせることになる。

金融当局者はまた、過去数年間の大きなテーマを振り返るかもしれない。例えば、インフレ高進への対応が遅かったとはいえ、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の間、インフレ期待がうまく固定されていたことをFOMCは感謝されるべきだ。それ以外にも、当局のコミュニケーションが経済に与える影響について考察することも可能だ。 金融市場が当局の発表に反応するスピードは政策の透明性が低かったころに比べ、政策効果が表れるまでのタイムラグが短く、変動が小さくなっている可能性を示唆している。

将来については、FOMCが金融政策のあり方をどのように変えていくのかに、筆者は最も関心がある。ここに思いつく質問を5つ挙げてみる。

金融政策はもっと先手を打つべきか?

経済が完全雇用状態にあると判断され、インフレ率が2%超に上昇し、しばらくその状態が続くと予想されるまで政策金利をゼロ近辺に維持するというパンデミック時の約束で、FOMCは誤りを犯した。これは、労働市場が非常にタイトで、物価が急騰している時でさえ、金融政策が非常に緩和的なままであったことを意味する。経済が完全雇用とインフレ目標に到達するのと同時に中立的な政策に達することを目標に、金融緩和を早期に撤廃し始める方が良い。遅れると、金融政策が景気に抑制的にならざるを得ず、不必要にリセッション(景気後退)リスクを高めることになる。

インフレ目標はもっと高くすべきか?

例えばインフレ目標を2%から3%に引き上げることで、ゼロ金利制約に達する前に金利を引き下げる余地がさらに生まれるとの意見もある。これは悪い考えだ。目標を変更すれば、パンデミック時に重要性が証明されたインフレ期待の安定を危険にさらすことになる。金融当局が一度目標を動かせば、また同じことをするのではないかとの疑念が生じるのは当然だ。また、FOMCにはこれ以上の余地は必要ないかもしれない。一般に信じられているように中立金利が上昇しているのであれば、金利が通常到達する水準とゼロの間にもっと余地があることになる。

インフレ目標をレンジに変更すべきか?

恐らく1.5-2.5%のレンジは良いアイデアだろう。FOMCがインフレを正確にコントロールできないことを明確に認め、小さくて重要でない乖離(かいり)と金融政策対応を必要とする乖離を区別できるようになる。

量的緩和として知られる資産購入をいつ、どのように実施すべきか?

量的緩和のコストと効果を評価する明確な枠組みがない。この慣行はFRBの収益と財務省への送金に影響し、FRBのバランスシートに1880億ドルの穴が開いている(そしてまだ拡大している)ことからも明らかだ。こうしたコストにもっと注意を払うべきであり、効果が薄れている量的緩和プログラムをいつ終了することが正当化されるかを検討すべきだ。

フェデラルファンド(FF)金利を目標にするのをやめるべきか?

金利を設定する際、FOMCは長い間、米銀が互いに資金を融通し合うFF金利市場を重視してきた。これはもはや意味をなさない。同市場は小さくなり、ますます特殊性を増しており、FF金利が目標レンジの下限を下回らないよう、翌日物リバース・レポ・ファシリティーをはじめとする解決策を考え出さなければならなくなった。替わって、準備預金の付利(IORB)をベンチマークとして使うべきだ。

米金融当局者がジャクソンホールでこれらの問題を公に取り上げなくとも、シンポジウムの傍らで多くの注目を集めることは間違いない。そして2025年に完了予定の金融政策枠組み見直しでもそうなるだろう。

(ニューヨーク連銀の前総裁、ウィリアム・ダドリー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Five Big Questions for the Fed at Jackson Hole: Bill Dudley(抜粋)

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