(ブルームバーグ):ゴールドマン・サックス証券のチーフ日本株ストラテジスト、ブルース・カーク氏は米国の景気や大統領選挙、日本の自民党総裁選、中東などの地政学リスクといった不透明材料がある中でも、海外投資家は足元の日本株の調整を買いの好機と捉えているとの見方を示した。

2001年から日本株をカバーしているカーク氏はブルームバーグのインタビューで、歴史的な暴落で海外勢の日本株に対する関心が一服するのではないかと憂慮していたが、現段階ではそうなっておらず、「むしろ、一部の海外投資家から寄せられている関心は顕著に高まりつつある」と語った。

日本株は先週、5日の取引で日経平均株価が過去最大の下げ幅を記録。労働関連統計の低調で米景気の先行き懸念が強まったほか、低金利の円を売り、高金利のドルを買うキャリートレードが解消された為替市場で円高が加速したため、7月中旬に史上最高値を更新していた相場の雰囲気が一変した。ただ、これまでの日本株上昇を支えてきた海外投資家が買い姿勢を保てば、相場は勢いを取り戻す可能性がある。

カーク氏によると、今回日本株が大きく売り込まれたのはファンダメンタルズ(経済の基礎的要因)よりもテクニカルな要因が強く、投資家はこの調整期間を買いの機会として生かすべきだと言う。具体的な銘柄名には言及しなかったが、ここ数日の個別株の動きは海外勢による日本株への関心を示すものだと述べた。

海外勢の保有比率が50%を超す時価総額上位銘柄では日立製作所とソニーグループが挙げられ、相場が暴落した5日以降、16日時点の株価パフォーマンスはそれぞれ9.8%高、5.4%高となっており、東証株価指数(TOPIX)上昇率2.5%をアウトパフォームしている。

東京証券取引所の投資部門別売買状況によると、海外投資家は日本銀行が追加利上げを決めた7月第5週(7月29-8月2日)まで3週連続で日本株の現物を売り越しており、累計売越額は1兆3679億円に達していた。今回の暴落局面を反映した8月第1週(5-9日)のデータは16日に公表される。

ゴールドマン証では8月月初の暴落を受け、投資家のセンチメント悪化が多少尾を引くと判断し、24年末のTOPIX目標値を2700ポイントと従来の2850から引き下げたが、1年後については2900のまま据え置いた。予想株価収益率(PER)が14.5倍前後にとどまり、長期平均と比較して特に割高に映らないためとしている。

カーク氏は、世界的な金融不安が高まった08年のリーマンショック、福島第1原子力発電所のメルトダウンが起きた11年の東日本大震災時にも日本株が大きな売り圧力にさられるケースはあったが、今回はシステミックリスクは存在せず、過去とは違うと話す。

一方、地政学リスクが顕在化した場合は日本株のボラティリティーが高まるリスクはあるとカーク氏は指摘。さらに岸田文雄首相が自民党総裁選への不出馬を表明し、国内政治の不確実性が増した点には警鐘を鳴らした。

ゴールドマン証は円高や米景気の後退リスクを踏まえ、ディフェンシブ・内需セクターを重視したポジションの構築を投資家に勧めている。食品の投資判断をオーバーウエート、医薬品と運輸・物流を中立に上げた半面、シクリカル(景気敏感)の自動車・輸送機を中立、鉄鋼・非鉄をアンダーウエートに下げた。カーク氏は「急落で顧客にもネガティブな影響があったため、もちろん懸念は残っている」と述べた。

ただ、カーク氏は発表された第一四半期の企業業績を楽観的にみているほか、コーポレートガバナンス(企業統治)改革への期待もあり、日本株の上昇を見込む「長期的なストーリーは変わっていない」と説明。円相場が落ち着けば、ドルベースで投資する海外投資家にとっても安心材料になるとの認識も示した。

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