スマートフォン決済のPayPayが、厚生労働省から給与をデジタルマネーで払う事業の認可を受けました。まずソフトバンクグループ10社が希望する従業員を対象に給与の受け取りサービスを始めます。給与のデジタル払いで、海外に遅れていたキャッシュレス決済は変わるのでしょうか。わかりやすく解説します。

デジタル給与とは

給与の支払い方法は、厚労省が所管する労働基準法で通貨(現金)を原則と定めています。1975年から銀行口座、98年から証券総合口座への振り込みが認められるようになりました。2023年4月、政府はスマホ決済アプリや電子マネー口座に給与を支払う仕組みであるデジタル払いも解禁しました。

給与のデジタル払いは、キャッシュレス決済サービスの口座に働いている企業から給料を直接送金する仕組みです。デジタル払いを利用したい企業はまず従業員と労使協定を結び、PayPayのような資金移動業者を通じて希望する従業員に給料を支払います。

厚生労働省のパンフレット(同省のPDFを加工し抜粋)

給与のデジタル払いは、キャッシュレス化を推進する政府の成長戦略の一環です。解禁を受け、PayPayを含む4社が厚労省に認可を申請しており、今回は第1陣として、約6400万人の利用者を抱えるPayPayが認可を得ました。

従業員はどう使う

まずはソフトバンクグループ10社が、約4万4000人の従業員の希望者を対象に始めます。8月14日から受付が始まり、9月25日の給料日から入金されます。従業員はPayPayで給与を受け取りたい場合、アプリ内に表示されるミニアプリ「PayPay給与受取」から申し込むと、入金用の口座番号をもらえます。

この口座番号はPayPayがPayPay銀行と契約することで、デジタル給与払いを導入する企業の従業員に割り振られます。PayPayによると、従業員がPayPay銀行の口座を開設するわけではないそうです。従業員は勤務先にその口座番号を伝えるとPayPayで給与を受け取れるようになります。会社が口座に給与を振り込むと、その金額がPayPayのアカウントに表示される仕組みです。

給与のうちPayPayで受け取る金額は、20万円を上限に設定できます。残高の上限も20万円で、それを超えるとユーザーがあらかじめ指定していたメガバンクなど他の金融機関の口座に入金されます。給与が20万円超の従業員の場合、月々の給与の一部がPayPayの残高として自動的にチャージされるイメージです。

わざわざ銀行口座からお金を動かす必要がないため、よりスムーズに日常の買い物や資産運用などでPayPayが使えるようになります。PayPayによると、ソフトバンクグループ以外の企業については、24年内に給与の受け取りサービスを利用できるようになるそうです。

日本のキャッシュレスは変わるか

PayPayがデジタル給与払いを担うことで、日本のキャッシュレス化が一段と進む可能性があります。経済産業省によると、キャッシュレス決済比率は23年に39%と、25年までに4割に引き上げる政府目標に迫っています。

もっとも日本は海外になお後れを取っています。キャッシュレス決済比率は21年時点で英国やシンガポールが6割、米国も5割超に達しています。地方ではキャッシュレス決済に対応していない店も首都圏に比べると多くあります。納税をする際も金融機関やコンビニなどの窓口での納付が主流になっています。

キャッシュレスが普及すれば一定の経済効果も期待できます。例えば、現金を使うことで生じる社会的なコストを減らせるかもしれません。野村総合研究所の試算によると、現金輸送やレジ締めなど現金の取り扱いで生じるコストは年1兆6000億円です。こうした業務負担を減らせれば、構造的な人手不足の解消にも一役買いそうです。

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