専門家によると、配車サービスやタクシーのドライバーは世界中の労働者の中で真っ先にAIによる失業の脅威に直面している。中国では既にロボタクシーが数千台規模で街を走っている。写真は武漢で撮影した「アポロ・ゴー」の自動運転車。7月撮影(2024年 ロイター/Sarah Wu)

中国の湖北省武漢市で配車サービスのドライバーとして働くリウ・イーさん(36)は、近所の住民がロボタクシー(自動運転タクシー)を呼ぶのを目撃し、自分の身にまたもや危険が迫っていると感じた。以前は建設業界で働いていたが、全国で売れ残りマンションの供給がだぶついて仕事が減ったため、今年からパートタイムでドライバーをしているが、ロボタクシーの普及で仕事を奪われると不安が隠せない。


 

武漢では中国ネット大手の百度(バイドゥ)傘下のロボタクシー「アポロ・ゴー」と配車サービスが市場を争っているが、リウさんは「誰もが腹を空かせることになる」と配車サービスの将来に悲観的だ。

専門家によると、配車サービスやタクシーのドライバーは世界中の労働者の中で真っ先に人工知能(AI)による失業の脅威に直面している。中国では既にロボタクシーが数千台規模で街を走っている。

自動運転技術はまだ実験段階だが、米国が事故発生を受けて承認手続きを停止したのに対して、中国は試験運行を積極的に進めている。国内で少なくとも19の都市がロボタクシーや自動運転バスの試験走行を行っており、そのうち7都市ではアポロ・ゴーなど5社が人の操作を排した完全自動運転の試験サービスの承認を得ている。

5社のうちアポロ・ゴーは、年内に武漢にロボタクシーを1000台配備し、2030年までに100都市で運営する計画を公表済み。

トヨタ自動車が出資する小馬智行(ポニー・エーアイ)は300台を運行しており、2026年までに運行台数を1000台増やす予定だ。

中国の自動運転技術スタートアップ、文遠知行(ウィーライド)は自動運転のタクシー、バン、バス、街路清掃車で知られる。中国の電子商取引大手アリババグループが支援するオートXは、北京や上海などの都市でサービスを展開。中国の上海汽車集団(SAIC)は2021年末からロボタクシーを運行している。

ボストン・コンサルティング・グループのマネジングディレクター、オーガスティン・ウェグシャイダー氏は「中国では加速が見られ、速いペースで認可が出ている。米国はもっと緩慢だ」と話す。

商業ベースで完全自動運転タクシーを運行している米企業はアルファベット傘下のウェイモのみ。同社元最高経営責任者(CEO)、ジョン・クラフチク氏は「米国と中国の差は際立っている。ロボタクシー開発業者に向けられる視線と業者が越えなければならないハードルは米国の方がはるかに厳しい」と言う。

中国でもロボタクシーの安全性を巡って懸念が生じているが、当局は経済目標達成のために試験を認可し、走行台数は増えている。消息筋によると、一部の中国企業は米国で自動運転車の試験実施を求めているが、米政府は中国で開発されたシステムを搭載した車両を禁止する方針だ。

ボストン・コンサルティングのウェグシャイダー氏は、中国が自動運転車の開発に取り組む姿勢を電気自動車(EV)開発支援になぞらえ、「一度やると決断すれば動きは非常に速い」と警戒する。

ドライバーの不安

中国の公式統計によると、国内配車サービスの登録ドライバー数は700万人。2年前は440万人だった。配車サービスは景気減速期に稼ぐ最後の手段となることから、ロボタクシーサービスの副作用を鑑みて政府が普及にブレーキを掛けるかもしれないと専門家は見ている。

7月には、ロボタクシーによる失業の話題がソーシャルメディアの検索ランキングのトップに急上昇。「自動運転車はタクシードライバーの暮らしを奪っているか」というハッシュタグも登場した。


 

リウさんはアポロ・ゴーのロボタクシーサービスに続いて、米EV大手テスラが「完全自動運転」システムを導入し、ロボタクシー業界に参入するのではないかと懸念している。

武漢のドライバーのワン・グオチアンさん(63)は、脅威にさらされているのは最も影響を受けやすい労働者だと考えている。アポロ・ゴーの車両が目の前にとまるのを見ながら、「配車ドライバーは底辺層向けの仕事。この業界がすっかりだめになったら、この層にはどんな仕事が残るのか」と先行きへの不安を口にした。



[ロイター]


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