病気などで生活が制限されるのに、国からもらえる生活費が突然打ち切られたとして、患者らが国を訴えていた裁判。

大阪高裁は19日、一審の判決を覆し、患者らの訴えを認めました。

■症状が変わっていないのに…年金支給打ち切り

【記者リポート】「完全勝訴です。原告8人全員の救済が認められる逆転勝訴となりました」

大阪高裁は19日、国に障害基礎年金の支給打ち切りの取り消しを命じました。

年金の支給を打ち切られた原告の1人、滝谷 香さん(41歳)は、子どもの頃に「1型糖尿病」と診断されました。

1型糖尿病は免疫機能の異常により、血糖値が安定しない病気です。

【香さんの夫・和之さん】「気持ち悪い?」

【滝谷 香さん】「もーって上がってくる。気持ち悪い」

【香さんの夫・和之さん】「吐きそうなん?」

最悪の場合は命に関わる恐れもあるため、昼夜を問わずインスリンを打ったり、糖分を補給したりと、血糖値のコントロールが欠かせません。

20歳以降は、生活を支えるための障害基礎年金を月におよそ8万円受給していましたが、8年前、突如、支給を打ち切られたのです。

【滝谷 香さん】「何の前触れもなく突然だったので、『えっ』て思ったし。毎回診断書を書いてもらっても、何一つ良くなってもいないのに」

1型糖尿病の場合、障害基礎年金は日常生活が著しい制限を受ける、障害等級「2級」以上の人に支給されます。

2016年、2級の認定基準は変わらないものの、3級の認定基準が改定されました。

香さんはその年、数年に一度必要な申請をしたところ、症状が変わっていないにも関わらず、2級から3級に変更されてしまったのです。

同様に、全国で障害基礎年金を打ち切られる人が相次ぎました。

国会で問われた当時の加藤厚生労働大臣は…。

【加藤勝信厚生労働大臣(2018年当時)】「かつてにおいては認定されていた、そういった事情をよく踏まえて、一件一件、丁寧に対応していくように努めていきたいと思います」

過去の認定状況も踏まえて判断する考えを示し、この発言以降、従来の等級が維持されるようになりました。

■香さんら9人の患者が国を提訴

香さんの夫・和之さんも、1型糖尿病を患っています。

加藤厚生労働大臣の発言以降に審査され、等級は今まで通り「2級」。新たな認定基準では「3級相当」と記されていましたが、従来の認定を踏まえた判断でした。

しかし、香さんの認定が変わることはなく、審査のタイミングで等級の判断に差が出るのは不平等だと訴えています。

香さんは、年金が打ち切られてから、本来は使い捨てのインスリン注射の針を複数回使ったり、病院に行く回数を減らしたりと、医療費を抑えるようになったといいます。

【滝谷 香さん】「私ら28年度(の申請)はだめになって、29年度の人がいけたことは良かったと思うんですけど、その違いって何なんだろうって」

【香さんの夫・和之さん】「不平等さを本当にすごく感じます」

香さんら患者9人は、障害基礎年金の打ち切りを取り消すよう国を相手に裁判を起こしましたが、1審では1人を除く8人について「日常生活が著しい制限を受ける」2級に該当しないと判断。

訴えを退けられた8人が大阪高裁に控訴しました。

そして迎えた、19日の判決。

大阪高裁は「血糖コントロールを余儀なくされ、第三者の介助も必要になることから、日常生活が制限される」などと指摘。

「日常生活が著しい制限を受ける程度と認められ、障害の程度は2級に当たる」として、原告の訴えを認め、国に打ち切りを取り消すよう命じました。

【滝谷 香さん】「病気のことを分かっていただいたことが何よりうれしく、それをまたこれから違う方向にもいろんなところで役に立っていけるような社会になっていってほしいなって思いました」

国は「判決内容を精査した上で対応していきたい」とコメントしています。

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