金融政策決定会合後、記者会見する日銀の植田総裁(31日、日銀本店)

日銀が3月のマイナス金利政策の解除に続き、追加の利上げに動いた。最近の賃金上昇の広がりに加え、円安進行を背景にした物価の上振れリスクを重視した。

短期金利をゼロ%近くに抑える必要性は薄れ、その副作用で円安が進んだ面も否めない。金融政策の正常化に向けた姿勢を示す意味でも決定は妥当だ。次の利上げを検討するうえでは円安が経済に及ぼす多面的な影響や消費が弱い原因を分析し、説明を尽くして適切な政策運営につなげてほしい。

31日の金融政策決定会合では政策金利を従来の0〜0.1%から0.25%に引き上げた。長期国債の購入額を2025年度末までに現在の半分に当たる月3兆円程度に減らしていく計画も決めた。

利上げの理由について、植田和男総裁は記者会見で「経済や物価のデータがオントラック(想定通り)だったことに加え、足元の円安が物価に上振れリスクを発生させている」と語った。

そのうえで「データが見通しどおりに出てきて、ある程度の蓄積になれば当然、次のステップに行く」とも述べ、さらなる利上げの時機を探る姿勢を鮮明にした。

今回の会合は7月中旬にかけて急激に進んだ円安にどう対応するのかが注目された。円安が物価高に拍車をかけて国民生活の負担になっているとの見方から、与党や政権の幹部らからは金融の正常化を求める声が相次いだ。

政治による金融政策への口先介入は厳に慎むべきだ。ただし、日銀が円安にどう向き合うのかが不明確だった面も否めない。

日銀は今回の声明文で、円安を踏まえて「輸入物価は再び上昇に転じており、先行き、物価が上振れするリスクには注意する必要がある」と指摘した。植田氏は「見通しに対して現実が上振れするリスクとしてはかなり大きなもの」と話し「そこまで含めて政策的な対応を打った」と明かした。

もちろん、日銀が円安是正を第一に利上げを急げば、実体経済を冷やしかねない。今回の利上げで民間銀行に住宅ローンの変動金利を引き上げる動きが広がる可能性もある。利上げの影響を慎重に見極める必要があるのは当然だ。

一方で円安を放置すれば物価高が長引き、消費回復がままならなくなる。円安や消費を巡る詳細な分析と並行し、政策金利の先行きや終着点をめぐる認識を市場と共有する工夫を続けてほしい。

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