北海道銀行がセコマに設置を始めた「道民のATM」

北海道銀行は23日、コンビニエンスストア「セイコーマート」(セコマ)の店舗に自行ATMを設置すると発表した。10月末までにセコマに計約600台のATMを置く。特定の流通チェーンの店舗内に地銀が自行ATMを多数展開するのは珍しい。人口減少が進む北海道内で金融サービス機能を維持するため、地場流通と連携する。

セコマ内の自行ATMの名称は「道民のATM」で、23日から設置を始めた。道銀の顧客は自行店舗のATMと同様に、平日午前8時45分〜午後6時は無料で預金の引き出しや預け入れができる。通帳記帳は対応していない。

道銀と同じほくほくフィナンシャルグループ(FG)傘下の北陸銀行や、提携する金融機関も同じ時間帯は無料で利用可能だ。それ以外の金融機関については全時間帯を通じて110〜220円の手数料がかかる。

道民のATMについて記者会見で説明する道銀の兼間頭取㊧とセコマの赤尾社長㊨(23日、札幌市)

23日の記者会見で、道銀の兼間祐二頭取は「セコマに行けば銀行の手続きのほとんどができるようになる。銀行の代わりにセコマに行ってもらうのが理想だ」と狙いを語った。セイコーマートを展開するセコマ(札幌市)の赤尾洋昭社長は「今回の協業で道民の利便性を拡充させることができる」と強調した。

セコマとの連携は道銀の店舗戦略の一端を示す。現在道銀のATMは計約650台が稼働するが、道民のATMの導入が完了すればATM総数が倍増する規模となる。兼間頭取は「セコマのATM利用が増えれば、銀行店舗のATMを減らすこともあり得る」との見方を示した。

道民のATMは道内の中核都市を中心に展開する計画だ。中でも札幌市内には全体の半分近い約270台が設置される。兼間頭取は「どういう形が最も利用してもらえるのかニーズを確認し、札幌市内の店舗のあり方について検討していきたい」と述べた。顧客との接点を再編する基盤にもなりうる。

道銀の2024年3月末時点の預金残高は6兆373億円で、店舗数は144カ所(23年6月末時点)。これに加え、道内だけで1093店(24年6月末時点)あるセコマの半数以上の店舗を道銀の拠点として取り込んだ形だ。

一方で面積が広い北海道では人口密度が低い地域で金融機関が店舗網や自行ATMを維持するのは難しい。道銀の店舗が少なく、セコマにもATMを設置しにくい地域では信用金庫や郵便局などと協力して店舗網を維持する動きもある。

22年には北海道信金の寿都支店内に住所変更や口座解約の手続きなどを受け付ける共同窓口を設けた。同様の取り組みは伊達信金や遠軽信金、さらには郵便局とも実施している。加えて、道内12の信金・信用組合とはATMの相互無料化も進めている。

金融業界ではサービスのデジタル化が急速に進む一方、道銀の地盤である道内の過疎地ではデジタルサービスを使いこなせない高齢顧客らも多い。こうした顧客向けに地域内の拠点を一定程度は維持する必要がある。セコマの店舗網を活用して自行ATMを広域展開する道銀の試みは、リアルの拠点網の維持と顧客の利便性向上を両立する地銀の新たな一手となる可能性がある。

道銀ATM、セコマにもメリット

セイコーマートでは従来、りそな銀行系のATM「バンクタイム」を設置していた。セコマとバンクタイムとの契約終了にあわせて、道銀側からセコマに設置を働きかけた。

セコマにとって、地元金融機関との連携は来店頻度の増加などのメリットが見込めそうだ。大和総研の内野逸勢主席研究員は「設置手数料が入るといったメリットもコンビニ側にはある」とみる。

店内調理の「ホットシェフ」など、全国規模のコンビニチェーンにはまねしにくい独自商品で道民の支持を得てきたセコマ。ATMでも地元色を意識した戦略を展開し「道民のコンビニ」としての立ち位置を盤石にしたい考えだ。

(神野恭輔)

【関連記事】

  • ・コンビニ「幸福度」1位はセコマ 強さ支える常識破りとは
  • ・セコマ、北海道産牛乳を即日沖縄に ANAと組み空輸

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。