米アポロ・グローバル・マネジメントはプライベートエクイティ(PE=未公開株)ファンドでありながら、企業への直接融資が中核事業となってきた。商業銀行を脅かす立場にあるが死角はないのか。日本事業にも力を入れるマーク・ローワン最高経営責任者(CEO)に聞いた。

(聞き手は金融部長 河浪武史)

――アポロはファンド勢の中でも、とりわけプライベートクレジット(融資)に力を入れています。融資とエクイティの比率は?

「6500億ドルの規模がある資産運用事業のうち、5000億ドルがプライベートクレジットで占めており、株式分野は1500億ドルだ。6500億ドルの半分は自己資金、つまりグループ傘下にある保険会社、アテネから調達している。残り半分は投資家から集めた資金だ」

「プライベートクレジットの市場規模は1.5兆ドルとされているが、我々は実際には40兆ドルの潜在規模があるとみている。アブダビ国営石油会社(ADNOC)には40億ドル近くを、日本でもソフトバンクグループに50億ドル強を融資している。米国でもAT&Tに資金を出しており、アポロのバランスシートの90%以上は投資適格級で占めている」

――そもそも、なぜファンドが融資なのでしょう。

「借り入れの調達源は、銀行システムか投資市場かその2つしかない。投資市場からは債券という形で調達もできれば、プライベートクレジットというやり方もある。日経などはプライベートクレジットを直接融資と表現するが、銀行による貸し出しも直接融資だ」

「2008年時点で運用規模は400億ドルだった。08年に金融危機が発生して、商業銀行などは弱体化した。当時、金利は世界中でほぼゼロになり、年金基金のような長期の投資家は利回りを得る方法をみつけなければならなくなった。プライベートクレジットを開始したのは、そうした背景がある」

――銀行規制が一段と厳しくなったことで、融資ビジネスの拡大余地が出てきたわけですね。

「銀行システムは極めて安全だと思うが、世界の規制システムは銀行リスクを減らすよう動いており、米国では銀行に一段の資本増強を求めている。欧州でもバーゼル規制があり、香港やオーストラリアなども銀行規制強化の動きがある」

「もう一点、銀行は預金という形で資金を受け入れている。つまり、短期の借り入れで長期資金を貸し出す仕組みだ。一方で保険会社や機関投資家は、長期の借り入れで長期の資金を貸し出す。このように投資市場が得意とする分野があり、金融システムをより弾力的にすることが可能になる」

――それは銀行の役割が小さくなっていくことを意味するのでは。

「資金の出し手として商業銀行の役割が小さくなるかと問われれば、その通りだ。だが重要な役割を果たすことに変わりはない。100年前のような伝統的な役割ではなく、銀行が変化していることを意味する。銀行は今では(企業や個人の)助言役だ。資本市場をサポートし、サービスの提供者でもある」

「一方で我々は銀行のようにM&Aのアドバイスやデリバティブ、外国為替取引や決済システムを提供することはない。我々が求めているのは運用資産だけだ。我々が銀行の競争相手になるとは思っていない」

Marc Rowan アポロ・グローバル・マネジメントの共同創設者兼CEO。アポロと米保険会社アテネ・ホールディングの取締役を務める。

――世界的な利上げで資金調達環境は厳しくなっています。ファンドの直接融資は持続可能でしょうか。

「金利が上昇すれば利ざやが拡大して、銀行部門には利益が出る。金利上昇は融資ビジネスに基本的に良いことだ。問題は借り手が財政難に陥るかどうかだが、米国が循環的な不況に陥ることはないだろう。米国は過去3年で海外からの直接投資の最大の受け入れ国となっている。(半導体の国内投資を奨励する)CHIPS科学法などで生産拠点が増え、結果として雇用も刺激されている」

「金融市場も住宅市場も活況だ。24年1〜3月期はハイイールド債と投資適格債の発行額がともに過去最大となった。金融引き締めの影響はあまり感じられない。それが持続可能かということだが、歴史的な尺度でみればバリュエーションは非常に高いと思われる。とりわけ株式市場は投資が上位に集中しており、こうした状況では株式の投資リターンが低下するのが通常だ」

――必ずしも楽観的ではない、ということですか。

「一方で(上場株の投資リターンの低下は)プライベートアセット(非公開資産)へのアクセスを高めることになる。S&P500を時価総額でみると10銘柄で全体の35%を占めている。10〜15年前、米国には8000社の上場企業があったが、今では4000社を切っている。投資家は公開と非公開という概念を見直し始めている」

「約40年前、公開株は安全で非公開株はリスクが高いものだった。今ではどうだろう。上場株と非上場株の違いは(換金しやすいかどうかという)流動性の度合いだ。しかし、流動性を少し減らしても高いリターンが得られるならどうか。機関投資家や富裕層は日々資金を必要としているわけではない。今後数年間で非上場市場は上場市場よりも大きく成長するだろう」

――「貯蓄から投資へ」と動き出した日本市場の成長余地をどうみていますか。

「アポロは日本でプライベートエクイティから投資適格のプライベートクレジットまで幅広い金融商品を提供している。流動性は低いけれども投資適格級でありながら利回りが1.5%も2.5%も高いのであれば、それは良い取引と考える顧客も出てくるだろう」

影の銀行、米経済の支え手に(聞き手から)


プライベートクレジットは年20%のペースで増え続け、融資量は世界全体で2.1兆ドルと巨大市場に成長した。投資ファンドは低金利時代に調達した巨額の「ドライパウダー(待機資金)」を抱え、今なお十分な融資余力を持つ。

金融規制が及ばない「影の銀行」の膨張には、規制コストの重い商業銀行からやっかみの声があがる。ファンド規制論は常にくすぶり、急成長するプライベートクレジットも一時的な現象に終わる可能性がある。

とはいえ、ファンド規制には米国経済を失速させかねないリスクもある。米商業銀行は米連邦準備理事会(FRB)の利上げで融資を絞り込んでいる。産業界への資金の出し手はファンドに代わり、実はそれが米経済の減速を防ぎ続けてきた。投資ファンドは今や巨大銀行と同じく「Too big to fail(大きすぎてつぶせない)」になりつつあるのではないか。

【金融を問う 投資ファンド編】

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