7月5日、昨年2月、米ニューヨーク州にあるアマゾン・ドット・コムの物流倉庫での重い箱を持ち上げる過酷なシフトを終え、翌朝目覚めた時、キース・ウィリアムズさんの手と手首は動かなくなっていた。写真は2023年7月、ニューヨーク州メルビルのアマゾン物流施設で撮影(2024年 ロイター/Soren Larson)
昨年2月、米ニューヨーク州にあるアマゾン・ドット・コムの物流倉庫での重い箱を持ち上げる過酷なシフトを終え、翌朝目覚めた時、キース・ウィリアムズさんの手と手首は動かなくなっていた。牛乳を入れた水差しを持つのさえおぼつかない。
ウィリアムズさんによると、アマゾンは個々の労働者の生産性を正確に測定し、猛烈な作業ペースを強いていた。
「箱をスキャンするスピードが基準に達していなければ、リストに載せられる。私の体には耐えられなかった」と語るウィリアムズさんは、全米トラック運転手組合(通称チームスターズ)と組んで倉庫従業員の労組を結成することに取り組んでいる。
こうした負傷に対処するため、連邦議員は倉庫労働者保護法案(WWPA)を提出した。物流施設業界における生産性目標を特に厳しく規制する包括的な連邦法案だ。
物流施設業は全米で最も急成長している産業のひとつであり、200万人近くを雇用している。
しかし法案を提出したエド・マーキー上院議員は、企業は「労働者を使い捨てのように扱っている」と語った。
「労働者は、職場における基本的な安全、尊厳、尊敬を保証する、一貫性を持った信頼に足る基準を適用されてしかるべきだ」と提言する。
WWPAは企業に対し、どんなノルマや生産性目標を課せられているかを労働者に伝えるよう義務付けている。それらを知らないと、もっと急いで大量に作業をこなさなければならないというプレッシャーを感じることがあるからだ。米国各州には同様の法案が十数件ある。
WWPAはまた、労働者を危険にさらすと当局が判断した基準を、雇用主が労働者に課すことを禁じている。
米商工会議所は、物流施設業界に過度な負担を課すとして法案に反対している。
マーク・フリードマン職場政策担当バイスプレジデントは「連邦政府による押し付けがましい管理だ」と指摘。物流施設業者はすでに労働者の安全確保を目指しており、規制当局が企業に生産性の監視や達成方法を指示するのは不適切だと述べた。
カリフォルニア州は6月、WWPAと類似した州法に基づき、アマゾンに対して生産性目標の開示を怠ったとして同法による過去最大の罰金、約600万ドル(9億6450万円)を科した。
同様の罰金は、ディスカウント小売りのダラー・ゼネラルや食品流通のシスコにも科されている。
アマゾンは罰金を不服として上訴。広報担当のモーリーン・リンチボーゲル氏は声明で「従業員の健康と安全ほど重要なものはない」と述べた。
アマゾンは、成果の問題で解雇された労働者はごく少数であり、労働者は期待される成果について上司と自由に話し合うことができると説明した。
倉庫ブーム
米連邦準備制度理事会(FRB)のデータによると、電子商取引と配送の爆発的な増加に後押しされ、物流倉庫セクターの雇用者数は過去10年間で約3倍の200万人近くに達した。
しかし、負傷率は平均的な職場の2倍以上だ。
米労働安全衛生局(OSHA)の元高官、ジョーダン・バラブ氏は、監視技術と分析の進歩により、企業は労働者を安全性の面でぎりぎりの状態まで追い込む手段を得たと指摘。「生産性アルゴリズムを使えば、安全性の低下を招いてでも労働者をより速く働かせるための、最新鋭の手法を洗い出せる」と語る。
カリフォルニア州の物流倉庫で働くナネッテ・プラセンシアさんは、職場に「一時停止ボタンはない」とし、「痛みがひどくてペースを落としたとしても、最終的には自分の責任になる」と話した。
アマゾンは、負傷率を下げる取り組みを前進させていると説明する。また広報のリンチボーゲル氏は、考課が従業員のコントロールの及ばない要因の影響を受けないよう、全従業員を平等に評価できるようにする仕組みになっていると強調した。
アマゾンに照準
労働団体と職場安全擁護団体は、国内最大級の施設をほぼ全て運営するアマゾンに照準を定めている。
非営利団体「ナショナル・エンプロイメント・ロー・プロジェクト(NELP)」の研究者アイリーン・トゥン氏は5月に共著で発表した報告書で、アマゾンは労働者1000人以上の米大型物流倉庫における雇用の79%を占めているが、負傷に占める比率は86%だと指摘した。
アマゾンは、NELPは「データを誤って解釈している、もしくは間違った筋書きに合わせるために重要な文脈を意図的に省いている」とする声明を出した。
OSHAは昨年、全米のアマゾン物流倉庫の安全違反に対して15万ドルの罰金を課したが、アマゾンは異議を唱えている。
同社が公表している独自のデータによると、負傷率は毎年着実に改善している。
またアマゾンは、人間工学に基づいて設計されたワークステーションからロボットによる支援まで、労働者の負担を軽減するための技術導入例をブログで列挙している。
商工会議所のフリードマン氏は、WWPAのような法律は結局、消費者のコストを高めると主張。「新たなコストが発生し、そのコストは全ての人に転嫁される可能性がある」と語った。
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