(ブルームバーグ): 住友商事の上野真吾社長は、脱炭素への過渡期に需要が見込まれるシェール開発の周辺分野で稼ぐ方針を示した。開発自体からは撤退しているものの、採掘に使用する油井管の販売や天然ガスの取引など強みを持つ分野で黒子として知見をいかす考えだ。

  4月に社長に就任した上野氏は6月25日の都内でのインタビューで、シェールガスの開発に戻ることはないとしたうえで、周辺分野では「われわれの強みが発揮できる」との考えを示した。シェールガスは米国にとって「おそらく最大・最重要の資源」だとみる。上野氏は油井管の販売網を拡大したいと話した。

住友商事の上野社長(25日・都内)Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  二酸化炭素(CO2)排出量を2035年までに19年比で50%以上削減する同社の目標に変わりはなく、再エネの開発に注力するが、「一気に石炭もガスも全部やめて、風力と太陽光だけでというのは物理的にも理論的にも難しい」と上野氏は説明。エネルギーの移行期間に伴う一定のガス需要を見込む。

  エネルギー関連企業の間では、脱炭素の圧力が強まる中でも、石油やガス需要はある程度堅調に推移するという見方が強い。米独立系石油会社コノコフィリップスは同業のマラソン・オイルの買収を決めた。三井物産はテキサス州のシェールガス上流事業の権益を取得したほか、東京ガスは昨年、シェールガス事業の拡大に向けて米企業を買収した。

  液化天然ガス(LNG)の権益についても「いい案件があれば確保していく」スタンスだという。経済成長を志向する東南アジアなどで需要があるとみている。住友商は昨年、関連会社を通じてオーストラリアのガス田開発プロジェクトの一部権益を取得している。

1.8兆円の投資

  住友商は今中期経営計画の最終年度である27年3月期までの3年間で、競争優位性がある事業を中心に1兆8000億円を投じる。「ど真ん中の事業、絶対に自信のある」分野と位置付ける建機や農業関連事業で地域や商材の拡大を進めるほか、不動産事業では福岡県やベトナムのハノイで都市開発にも取り組む。

  「未経験の分野に大きなお金を投入するということは、この3年間おそらくない」とする。住友商は他の商社に比べて株価純資産倍率(PBR)で後れを取っており、中計で描いた成長戦略を実現できるかに関心が集まる。

  岩井コスモ証券の清水範一アナリストは、「市況に左右されないような事業をもう少し増やすことが課題」と指摘する。足元で株価が上昇している伊藤忠商事は、消費者に近いビジネスポートフォリオの強化で市場からも評価されている一方、米国金利や景気の不透明感が住友商の資源関連事業に影を落としていると話す。第1四半期の時点で進捗(しんちょく)が確認できれば株価が見直される可能性もあるが、足元の株価は重たいとした。

  住友商は課題事業の改善にも取り組む。マダガスカルでニッケルを生産するプロジェクトは、「再構築」事業に位置付けて手を打つ。ニッケルは電気自動車(EV)向けなどで需要があるものの、同プロジェクトは不具合などでたびたび損失を計上してきた。

  上野氏は、まずは半年から1年の間に落ち込んでいる生産量を回復させた上で、市場の反応も見ながら売却やマイノリティー出資への転換も含めてさまざまな選択肢を検討するとした。

  岩井コスモ証の清水氏は同プロジェクトについて「今後さらなる大きな損失は当面ないと思われ、一つの安心材料だ」と述べた。

上野社長のその他の発言

・25日時点で1ドル=160円が目前となっていた為替相場は国内の資金需要の弱さを表しており「将来の日本を考えた場合には心配」
・データセンターや半導体分野の投資が日本に向いてきていることは「非常にいいこと」で、「うまく利用しながら国力を高めていかないといけない」
・同社株に数百億円規模の投資を行ったことが報道されている米エリオット・マネジメントなど、特定の株主に関してのコメントは控えた
・「投資家に注目されていることはすごく良いこと」で市場の期待感と励ましは最近特に感じる。それを糧にしてPBRや自己資本利益率(ROE)を上げていきたいとした

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