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<仮に災害でサプライヤーが被災しても、即座に状況把握、代替品供給ができるようになる――。電材メーカーのパナソニック エレクトリックワークス社が導入した先進的なSCM(サプライチェーン・マネジメント)システムとは>

配線や照明器具から純水素型燃料電池まで、幅広い電設資材を扱うパナソニック エレクトリックワークス社(以下、パナソニックEW社)は、2020年にサプライチェーンの「途絶」を経験した。大手サプライヤーの火災により、約1年半にわたり一部製品の供給がストップしたのだ。

「お客様にご迷惑をかけた反省から、リスクマネジメントについての検討を行いました」と、同社サプライチェーン統括センターの森下賢治所長は言う。

こうしたサプライチェーン上のリスク管理は、なにも製造業1社だけが抱える課題ではない。昨今は、世界経済に大きな影響を与えたコロナ禍における物流遮断や、先行きの見えない不安定な国際情勢を背景に、経済を止めないため、人々の生活を守るために、その重要性がますます高まっている。

今年1月にも、石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6の地震が発生した。とりわけ地震の多い日本では、いつどの地域が震災被害に遭ってもおかしくない。さらには集中豪雨による水害など、自然災害で各地が想定外の被害を受けるケースも増えている。

有事においても安定的な供給を実現するための、サプライチェーンのレジリエンス(回復力)強化。それを達成する手法として各社で導入が進むのが、SCM(サプライチェーン・マネジメント)だ。

パナソニック エレクトリックワークス社の大瀧清社長 Newsweek Japan

平均10日から3日に短縮、しかし課題もあった

先進的なSCMの構築を進めてきたパナソニックEW社は、今年4月、「EW-Resi.(EWレジ)」と呼ぶシステムを導入した。

「ここ数年、当社では有事でも供給をストップさせず、需要にお応えして安定的な供給を続けるためのSCMオペレーション構築に取り組んできました」

5月末、パナソニックセンター東京(有明)での記者発表会でそう話したのは、同社の大瀧清社長。大瀧氏によると、目指すサプライチェーン強靭化の取り組みは、パナソニックグループが提唱するPX(Panasonic Transformation)の具体的な活動の1つだという。

「PXでは、私たちが磨き上げてきた現場の強みを最大限に生かし、現場の行動変容につながる『現場ドリブンDX』として活動を位置付けています。お客様の情報を起点に、バリューチェーン全体の整流化、省力化、自動化を実現していきます。

例えば、『営業DX』では顧客接点強化によるソリューション提案力の持続的強化、『ものづくりDX』では高品質で生産性の高いスマートファクトリーの実現、そして本日の主題となる『SCM-DX』では、EW-Resi.の導入によりサプライチェーンの強靭化を実現し、設備インフラ事業者としての社会的責任を果たしていきます」

従来は各拠点がバケツリレーのように情報伝達を行っていた有事対応を、2023年4月に一元化。そこから約12カ月というスピード感で今回の「EW-Resi.」に発展させた(パナソニックEW社発表資料より)

同社がこのたび導入したEW-Resi.は、富士通の汎用システムと統合し、2023年4月にパナソニックEW社全社で稼働させた「ES-Resi.(ESレジ)」を発展させたものだ。

パナソニック エレクトリックワークス社サプライチェーン統括センターの森下賢治所長 Newsweek Japan

サプライチェーン統括センターの森下所長の説明によれば、最初のES-Resi.により、全社での情報共有、サプライチェーン上のアクシデントに影響を受ける部品の早期掌握、そして代替品の事前登録による対応アクションの早期化を実現した。

「Teamsチャットを使ったスピーディーな情報共有も可能になり、BCP(事業継続計画)状況の把握を平均10日から3日にまで短縮することができました。一方で、情報共有から先のアクションについては、従来通りに各所で属人的に行う必要があるなど課題もあった」(森下氏)

本格運用前に起こった能登半島地震で分かったこと

そこで新たに開発・導入したEW-Resi.では、富士通のビッグデータ解析プラットフォームや最新のAI技術を採用している。

生産、販売、在庫、部品調達など20の現行システムの業務統合に加え、20万品番を超える在庫部品の紐づけや可視化を行い、生産・販売・在庫を統合的に計画するPSI計画や、部品調達計画などのグローバルレベルでの全体最適化ができるようになった。

有事対応においては、地震などで被災したサプライヤーの被災情報や部品の手配状況、影響を受けそうな部品や代替部品の在庫状況などを、即座に抽出・リストアップできるよう機能を大幅にアップデートしている。災害発生時の対応アクションは、平均1日で完了できるようになった。

4月に全社導入されたEW-Resi.が早速その成果を発揮したのが、本格運用前に発生した能登半島地震時の対応だった。

「震度5以上を計測した被災地の情報を抽出し、当該地域のサプライヤーに関わる製品や部品の状況等を可視化すると同時に、供給に影響が出そうな部品や代替部品の供給が可能な他拠点を特定して対応を行いました。EW-Resi.では、そこまでのアクションを即日に完了することができ、結果として生産停止を回避することができたのです」(森下氏)

現在は国内外18拠点の連携を終え、実運用後の2024年度内には海外を含むすべての拠点を連携する予定だという。

「海外拠点では一部、モニタリング等のレベルを国内拠点と少し変えた運用を行います。SCM情報のグローバルでの共有をこのレベルで実現しているメーカーは、日本では他にないと思います」と、森下氏は胸を張る。

3000以上のサプライヤーと18の工場、20の既存システム、20万品番の部品情報のデータを「Fujitsu Data Intelligence PaaS」で統合。独自のAI技術なども活用し、SCM(サプライチェーン・マネジメント)やBCP(事業継続計画)を含む、30の業務改善アプリをわずか1年の期間で構築したという(富士通発表資料より)

労働人口不足の日本、SCMで業務工数も削減できる

EW-Resi.に採用されているのは、多様な領域の先進テクノロジーで構成される、富士通のサービス群「Uvance(ユーヴァンス)」の中核プラットフォーム「Fujitsu Data Intelligence PaaS」だ。

富士通の執行役員EVPグローバルソリューションビジネスグループ副グループ長、大塚尚子氏は、今回の取り組みについてこう語る。

「Fujitsu Data Intelligence PaaSの圧倒的なデータ統合の強みを生かし、短期間で大きな価値を提供することができました。お客様に大きなビジネスインパクトを与えると同時に、社会的価値の創出を目指す我々にとっても、今回の事例はとても大きな成果です」

災害対策が1つのわかりやすい例だが、AIを活用する先進的なSCMは業務効率の改善にもつながるものだ。「パナソニックEW社が他社に先んじて業務工数の削減を目指されたことには、近い将来必ず労働人口不足に陥る日本企業ならではの観点も感じています」と、大塚氏は言う。

グローバルに事業展開するメーカーにとって、もはや欠かせないサプライチェーンのレジリエンス強化。パナソニックEW社のような先進的な取り組みが増えていけば、経済・社会の基盤がより強固なものになるだろう。

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