日本政府は「グリーントランスフォーメーション(GX)」、つまり脱炭素のために、政策によって10年で150兆円の官民投資を引き起こすという。投資というと聞こえはいいが、原資を負担するのはわれわれ国民だ。一人あたり120万円、世帯あたり360万円も負担するのだが、見返りはほとんどありそうにない。
なぜなら、最大の投資先が再生可能エネルギーだからだ。
太陽光発電は本質的に二重投資である。なぜなら、家庭に太陽光パネルをつけても、火力発電所をなくすわけにはいかないからだ。夜でも曇りのときでも電気は必要だからである。
バックアップのために火力発電所が必要だという言い方をする人もいるが、これでも太陽光パネルをひいきしすぎている。なぜなら、太陽光パネルは年間17%しか稼働しない。年間83%は火力発電所に頼ることになるわけで、8割以上も発電するのにバックアップという言い方は的外れである。
要は、電力供給のためには火力発電所が必要なのであって、太陽光パネルは気まぐれに発電するに過ぎない。これは風力発電も同じことである。日本では洋上のもっとも風況の良いところでも、風力発電の稼働率は35%しかない。すでに太陽光発電は導入し過ぎであり、余ったときには電気を捨てている状態である。
政府はこの対策として他地域への送電線を建設するとか、蓄えるためにバッテリーを導入するが、これは三重投資、四重投資になる。再エネはいまや最も安いなどという人がいるが、それはコストの一部しか見ない都合のよい話をしているに過ぎない。現実には再エネを大量導入したドイツやデンマークは電気代が最も高い。
CO2(二酸化炭素)を排出しない火力発電として、CO2を地中に埋めるCCS、それにアンモニア発電や水素発電などにも政府は巨費を投じるとしている。
だが、これも万事予定通り進んだとしても、発電コストはこれまでの火力発電所の2倍、3倍、あるいはそれ以上になると試算されている。こんな高価な技術を日本でいくらか導入したところで、世界で売れるはずもない。これに何千億円、何兆円と費やすというのは、まるきり無駄遣いである。既存の火力発電と競合できるコスト水準になる技術を目指して、研究所で基礎的な技術開発をするにとどめるべきだ。
すべてが予定通りに進んでも、確実なのは、莫大(ばくだい)な国民負担だけである。喜ぶのは利権にあずかる一部の政治家、行政官、企業ばかりである。こんな愚かな政策で「グリーン経済成長する」とのたまう経産省は、経済も産業もまったく分からないようだ。
杉山大志
すぎやま・たいし キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。1969年、北海道生まれ。東京大学理学部物理学科卒、同大学院物理工学修士。電力中央研究所、国際応用システム解析研究所などを経て現職。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、産業構造審議会、省エネルギー基準部会、NEDO技術委員などのメンバーを務める。産経新聞「正論」欄執筆メンバー。著書・共著に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『亡国のエコ』(ワニブックス)、『SDGsの不都合な真実』(宝島社新書)など。
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