日本版ライドシェアという制度がチラホラとスタートして話題を呼んでいる。主にタクシーに関するお話だが、終バス発車後はタクシーの独壇場となるため、都市郊外駅で終バス時刻が近くなるとタクシー待ちの列だ。少し異なる視点でバスとタクシーとライドシェアとの関係をみてみた。

文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
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■賛否両論の日本版ライドシェア

終バス時刻近くなると入れ替わりにタクシーの台数が多くなる

 いわゆる日本版ライドシェアは、明記されてはいないが制度上はタクシーの補完を主な目的としているといっても良い。海外のように誰でも気軽にマッチングにより運賃を収受できる制度とは根本的に異なる。

 主に法人タクシーが運営に関与し、参加する個人も総稼働時間が制限されるので、まともな所得として成り立つのかどうかという試算がニュースサイトに多く掲載されている。

 これには賛否両論あり、ざっくりとだが海外在住歴のある方ほどライドシェアに賛成で、そうでない方は反対の意見が多いように見受けられる。海外の事情とは異なるものの、何が賛成で何が反対なのか整理してみよう。

■明朗会計でアプリにより安全が担保される?

緑枠は終前で赤枠は終バス

 ライドシェアの運賃は事前に乗車位置と降車位置を決めることにより事前にわかる。そして支払いはオンラインで済ませるので、現金のやり取りはない。海外ではライドシェアが総じて正規のタクシーよりも運賃が安いことが多い。あくまでも個人所有の自家用車が「ついで」に同方向の人を乗せるという「シェア」が建前だからだ。

 そして治安の悪い国ほどライドシェアの方が安全であることが多い。メーターを使わない、運転士が強盗に化ける、空港から乗車してナンバーを記載した紙片を乗り場で受け取っても、運転士がなんやかんや言いながら回収してしまう等の行為が後を絶たない。

 こうした治安の悪い国では金銭の直接のやり取りがなく、オンラインで決済が済み、運転手の評判がそのまま反映されるライドシェアは安全な乗り物として認知されている。よって日本では正規のタクシーが治安上、危険ということはないが、これら海外の例を準用して賛成という意見が大勢だ。

■二種免許がないのはどうしても不安?

終バスが出ると深夜路線があるのはごく一部

 一方で、有償で人を運送するのには二種免許が必要で、タクシー会社自体も厳しい管理下に置かれる日本では、一種免許しか持たない人の運転する車にお金を払って乗るのは不安だというのが反対意見の大勢だ。免許の種類による事故率で単純比較は出いないが、起こるときは何の免許であっても起こる。

 問題は事故後の対応だ。二種免許を取得する際には徹底的に応急救護処置を学ぶ。実に一種免許の倍の時間の教習で心肺蘇生からAEDの使用法まで実地訓練で行う。こうした知識や技術も二種免許の裏付けとなっているのは確かである。

 そしてもう一つの反対理由として挙げられるのが、車両の整備である。法人タクシーは整備士が車庫にいて次の運行の前までにきちんと整備を行う。個人所有の自家用車をライドシェアとして使う場合に、果たしてきちんとした整備が行われているのかどうかはわからない。

 ちなみに営業用のタクシーは1年車検で、自家用車は3年または2年だ。いまの自動車は多少整備しなくても走るといえば走るが、法令で運行前点検から定期点検、車検とやらなければならない点検事項は多い。果たして運行前点検を行っている自家用車ユーザーは何人いるだろうか。

■結論としては?

深夜系統は運賃倍額だがタクシーよりは廉価

 日本版ライドシェアは地域の特性により運行可能な曜日や時間が細かく定められているので、タクシーが足らない時の補完でしかない。よって反対であろうが賛成であろうが、使いたい人は使えばいいし、不安なら流しのタクシーを止めるか、電話して配車してもらえばよい。それだけのことである。

 ただし現状のアプリではライドシェア車を選択的に配車してもらうことはできないようなので、嫌な人は直接タクシー会社に配車依頼する等するしかない。空車のタクシーが近くにいない場合は待ちぼうけを食らうことになるのだが、そういう地域なので仕方がない。

■コロナで減ってしまった深夜バス

終電と終バスはリンクしないのでタクシーの出番となる

 一般的に終電と終バスを比較すると電車の方が遅いことがほとんどだ。終電で最寄りの駅まで帰り着いても、自宅までの路線バスはもうない。さらに都心から終電以降に出発する郊外までの深夜バスとなると、頑張って運行している事業者もあるがコロナで運休したまま運転士不足で廃止されてしまった路線も多い。

 そういう時間帯には特にタクシーが活躍する。それでも都心や郊外の駅からタクシーに乗るにはかなりの待ち時間があり、ここにライドシェアを組み込みたいのがそもそもの狙いだ。

 深夜バスはだいぶ減ってしまったが、それでも23区内では一例として都営バスや京成バス等が郊外駅からの平日限定で深夜系統を運賃倍額で運行している。運賃倍額でも元が均一運賃なので、例えば都営バスだと420円、京成バスだと440円でタクシーよりもはるかに廉価だ。

■終バス後の様子

終バス後はタクシーの独壇場?

 都心部から離れた住宅地が広がる郊外の駅では、駅から住宅街までの路線バスを多数運行している。しかし終バスは早く、とても終電までは対応してくれない。特に終電が遅いJRだとなおのことだ。

 終バス以降に到着する電車から吐き出された乗客は、駐輪場に向かうか歩き出すか、タクシー乗り場に殺到するかだ。家人が自家用車で迎えに来ていることもある。郊外駅から遠距離にタクシーを飛ばす人はまれであろうが、絶対的な台数が足らず駅まで戻ってくるまでひたすら待つことになる。

 こうなれば1秒でも早く帰りたい人はライドシェアでもなんでもいいから乗りたいのが人情なのかしれない。海外なら同方向の人を募り1台のタクシーに相乗りするのはよく見かける光景だが、日本では災害時や非常時でもなければそんなことはしないので、ひたすら待つ。

■利用者の環境によりライドシェアの価値は変わる?

路線によってはターミナルからの終バスは立席がでることも

 終バス後の数時間続くタクシーの絶対的な不足を補うだけでも当事者からすればライドシェアは価値あるものなのかもしれない。バス運転士不足問題が解決されればバス事業者は運賃倍額の深夜系統を多く走らせても採算が合うが、現状ではバスはあっても運転士がいないので、できない相談になってしまっている。

 タクシーにしてみれば深夜系統バスがあってもタクシーに乗る人は多いのだから、駅に行けばいくらでもお客さんはいる。むしろ待たせて乗客をイラつかせるより深夜バスである程度運んでくれた方がいい。一発長距離でなくても、ワンメーター相当の運賃を繰り返し乗せるのは実は効率の良い稼ぎ方の一つでもあるのだ。

 やはり結論として落ち着くのはバスやタクシーの運転士不足問題なのだ。ライドシャアのバス版は問題が多すぎて実現は不可能だろうが、せめてラッシュ時や深夜だけのバス運転士を副業でもいいので、高給で採用できる仕組みを考えてほしいものだ。

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