お客さんを乗せて運ぶバスには、その運行形態によって乗合、貸切、特定などといった法律上のジャンルがあり、それぞれのバスの性質やタイプごとに分類されている。ここではそんな中で[特定]運用のバスに着目する。
文・写真:中山修一
(具体的な特定バスの写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■路線バスでも観光バスでもないバス
決まった区間を決まった時間に走り、利用する際におカネを払って乗る、いわゆる路線バスや高速バス・都市間バスなどを法的なジャンルで言うなら、どれも「乗合バス」の枠組みに入る。
一方で修学旅行をはじめ、旅行代理店が企画したパックツアーで、移動手段にツアー参加者だけが乗れるバスが用意されていた場合、そのバスの法的ジャンルは「貸切バス」に相当する。
また、いろいろな名所を巡る観光バスには、乗合と貸切両方のパターンがあり、これはサービスを提供している旅行会社やバス事業者によってバラバラだ。
乗合/貸切ともに、車両本体は同じ車種が使われることが多い。そのため、見分けがつくのか、という点が気になるところ。
どのバスでも外観から乗合/貸切の判別ができるワケではないものの、車体横のドア周辺に注目すると、乗合バスなら「乗合」、貸切バスなら「貸切」と書かれている車が割と多いので、そこを狙点にするのが簡単だ。
しかしバスの中には、車両自体は普通の路線バスや観光バスと同じ形をしていていも、乗合でも貸切でもない「特定」と書かれた車を稀に見かける。果たして何者なのだろうか!?
■ちょっとディープな特定バスの世界
車体に「特定」と書かれたバス……これを掘り下げてみると、立派なバスの法的ジャンルの一つだと分かった。「特定旅客自動車運送事業」がフォーマルな名称で、その用途に使われるバス車両に特定の印が入る。
路線バスや貸切バスとどう違うのか、ざっくりではあるものの、基本的に特定バスは送迎バスの一種と考えて良いようだ。
利用者から直接おカネを取らない、無償運行であるのも特定バスのポイント。しかし運賃が発生しなければ、人の輸送は自家用車でもできるので、なぜ特定バスというジャンルが必要になってくるかも気になるところ。
特定バスの需要の根本がどこなのかを探ると、どうやらバスの利用者自身ではなく、多くの人が集まる施設を運営している企業や団体・個人事業主等々にあるようだ。
例えばホテルを経営している会社が、立地があまり良くないので主要駅から無料の送迎サービスを行おうと考えたとする。
ところが自社で送迎車を用意するほどの余力がない……そんな時に、ホテルの経営者が送迎サービスを代わりにやってくれるバス会社に依頼して、費用をホテル側がバス会社に支払った上で送迎バスを走らせてもらう。
バスの利用者から運賃を取らないとはいえ、会社間でおカネのやり取りを発生させて人を運ぶ以上、御上の目が届くところでの活動が要求されるようになり、運行許可を取る必要が出てくる。
ここで依頼を受けたバス会社が、主要駅〜ホテルを結ぶバスに専任の車両を割り当てようとする場合、その車両を「特定」印のバスとして登録ができる。
大まかにはそんな流れを経て特定バスが誕生するわけだ。ちなみに特定バスは事業用車のため、いわゆる緑ナンバーが付く。
■どんな場所に現れる?
では、特定バスがどんなシーンで使われるのか。出発地点〜目的の施設までの運行区間が明確に決まっているのが条件の一つで、前述の例のようにホテルの送迎用として特定バスが運行している場所も実際にある。
代表的なものに、工場のように規模の大きな施設へ通勤する従業員向けのシャトルバスが挙げられるほか、病院や介護施設、結婚式場、葬儀場、ショッピングモール、コンベンションセンター、レストランなどが、特定バスが走る条件に合う場所と言えそうだ。
また、ターミナルが数カ所に分かれている大きな空港では、ターミナル間だけを移動したい需要が多々あるようで、よく無料のシャトルバスを走らせている。
そのターミナル間無料シャトルバスにも、特定印の車が使われている場合があるので、空港を訪れた際にちょっとチェックしてみるのもまた一興。
特定バスに車種の制限はなく、マイクロバスから大型路線車、連節バス、ハイデッカータイプの大型車に至るまで、乗合バスや観光バスと変わらない具沢山なラインナップが揃っていて楽しい。
乗合や貸切バスに比べると、活躍するエリアが狭く限られているのに加え、それほど数も多くないようで、バスの中でも特定印はなかなかのレアキャラかも!?
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