80年代後半のバブル期に開発されたスポーツカーは名車揃いだった。景気が後押ししていたことに加えて、いまほど環境性能や衝突安全性能に関する基準が高くないこともあり、性能も装備もスタイルも本当に贅沢で華があった。「直線番長」とよばれてしまっていた、三菱の「GTO」もそのひとつだ。

文:立花義人、エムスリープロダクション/写真:MITSUBISHI

イケイケだった時代を反映した、尖った個性が魅力のモデル

 三菱「GTO」は1990年から2001年まで販売された三菱の高級4WDスポーツカーだ。現在の三菱車のイメージからは想像ができないが、GTOは時代を反映するような装備とコンセプト、トルクフルな加速が魅力の本格的なスポーツカーだった。

 1,840mmの全幅とボリューム感たっぷりのフォルムによって、存在感や迫力は満点。当初から北米市場を意識したモデルであったため、デザインの好みは分かれるところだが、当時三菱のスポーツカーであったランサーやギャランとは違う曲線基調のデザインが、新たな境地を開いていた。

 車名の「GTO」とは「Gran Turismo Omologato(グラン・トゥリズモ・オモロガート)」というイタリア語が由来だ。意味としては「モータースポーツにおけるGTカテゴリとして公認されたクルマ」というものだが、三菱もGTOも、特にイタリアと関係があるわけでもなく、GT選手権のレース(現SUPER GT)を睨んで開発されていたわけでもなく、一般の公道を走るスポーツカーとして開発されている。この三菱らしいユニークさが当時のイケイケな雰囲気にぴったりマッチし、それがGTOの個性にもなっていた。

三菱「GTO」(1990年~2001年)。1,840mmの全幅とボリューム感たっぷりのフォルムによって、存在感や迫力は満点
曲線基調のデザインは当時の三菱としては珍しかった。リアのスタイリングも印象的だ
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スポーツカーなのにFFベースの不思議 ただ、メカには三菱らしいこだわりが

 GTOのエンジンとシャシーは、アッパーミドルクラスの高級セダン「ディアマンテ」をベースにしたものだ。赤をイメージカラーに纏った曲線基調のデザインでありながら、エンジンは横置きでFFベース。4WDを得意とする三菱らしく、全モデルが4WDだったが、北米市場向けにはFFも用意されていた。いま思えば何とも不思議なクルマだ。

 搭載されたエンジンは3.0L V6DOHCで、NAとツインターボを用意。ツインターボの最高出力はライバルと同じ280psで、最大トルクは43.5kgf・mを発生。ただ、車両重量は1,700kg前後と、当時のスポーツカーにしてはかなりの重量級で、前後重量配分も60:40と、相当なフロントヘビー。その結果、加速はすごいがコーナーは遅い「直線番長」という、不名誉なあだ名がつけられてしまった。

 ただ、高速走行時にフロントベンチュリーカバーとリアスポイラーが自動的に作動する「アクティブエアロシステム」や、スイッチを切り替えることでスポーティな音質を楽しめる「アクティブエキゾーストシステム」、アルミ製4ポット異径対向ピストンブレーキキャリパーや、ドイツのゲトラグ社製5速MTを採用するなど、当時ならではの贅沢でこだわりの詰まった装備は満載されていた。

重量級だがトルクフルな加速と四輪駆動システムが魅力だ

ストイックなスポーツカーではなかったが、安全にスポーツドライブを楽しめるクルマだった

 フロント横置きエンジンの4WDなのに、みてくれは某イタリアン・スポーツカーに似せていたことも、不名誉なあだ名をつけられてしまった要因だろう。ピュアスポーツカーを求める人には、見向きされなかったGTOだが、強度の高いゲトラグ社製のトランスミッションや高張力鋼のドライブシャフト、大容量のブレーキシステムなど、スポーツカーとしてのポテンシャルに注目して、ベース車としてカスタムを楽しむ人も多かったし、雪国のように季節によって路面状況が変化するような地域に住んでいる人にとっては、安心してスポーツカーだった。

 GTOは、乗り手を選ぶようなストイックなスポーツカーではなく、安全にスポーツドライブを楽しめる選択肢にもなり得たのだ。

後期型のGTOはリトラクタブルヘッドライトから固定式ヘッドライトに変更された

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 ボディサイズの割にキャビンスペースが狭く、4人乗りではあるものの、後席は実用的とはいえなかったGTO。ただ、こういうデザインコンシャスで豪華なクルマは、燃費や安全性能を優先させた現代では見ることができない。「GTO」の名は今後も語り継がれていくだろう。

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