いよいよ、スマホメーカーがつくったクルマが発売となった。中国のスマートフォンメーカーとして知られている「Xiaomi(シャオミー)」は2024年3月28日(現地時間)、同社初となるバッテリーEVの「Xiaomi SU7」を発売した。価格は21万5900元(約450万円)から。同じ中国のメーカーであるBYDの「ATTO 3」と変わらない価格だが、ATTO 3とは生い立ちが全く違う。シャオミーSU7の詳細をご紹介しながら、シャオミーが抱く野望について考えよう。

文:立花義人、吉川賢一
写真:Xiaomi

「中国のアップル」といわれるシャオミー

 シャオミー(小米科技)は、2010年に創業したばかりの中国発のスマホ・家電ブランドだ。日本でも大手キャリアが取り扱っていることで知っている人も多いだろう。

 現在シャオミーは、スマートテレビやスマートエアコン、スマート電気ケトルなどの家電製品のほか、スマート電動バイクなど、スマホとの連携機能を持つ商品を多く手がけており、スマホメーカーの強みを生かして、周辺の機器をコントロールするスマート分野を広げている。

 現在は中国以外の多くの国へも進出しており、この10年の急成長のようすから、「中国のアップル」とよばれているほど。ただ、当のアップルは、2024年3月に電気自動車の発売計画を中止すると発表しており、その点においてシャオミーは、アップル越えを果たしたといえる。

シャオミーのバッテリーEV「SU7」。落ち着いた雰囲気をもったラージサイズの高級スポーツセダンだ
リアスタイル。フォルム全体は、なめらかでゆったりとした曲線で構成されており、ゆとりを感じさせる大人のスポーツセダンという雰囲気

ゆとりを感じさせる大人のスポーツセダン

 そんなシャオミーがつくったバッテリーEV「SU7」は、ボディサイズが全長4,997mm×全幅1,963mm×全高1,455mm、ホイールベースは3,000mmの4ドアタイプのラージセダンだ。サイズはポルシェパナメーラに近く、デザインの雰囲気もどことなくパナメーラやタイカンに似ている。

 インテリアは、インパネの中央には16.1インチの大型タッチスクリーンを配置し、このディスプレイを介してさまざまなアプリで機能を行う。物理スイッチは基本的に省略されており、水平基調のダッシュボード構成も含めて、インテリアの雰囲気はテスラにかなり近いが、見た目の高級感はSU7のほうが上に感じる。

 ステアリングホイールの奥には7.1インチの液晶メーターパネルを装備しており、運転に必要な最小限の情報を表示するほか、ナビはヘッドアップディスプレイでも確認できる。後席用にも2台のディスプレイを用意。車内のガジェットとスマホとの連携はお得意の分野であり、このあたりの装備の充実感は、世界最先端のレベルに仕上がっている。

SU7のインテリア。インパネの中央に配置された16.1インチの大型タッチスクリーンが目立つ

なんとタイカンの2割以下の価格

 ラインアップは、標準仕様のほか、中間グレードの「PRO」、そして高性能版の「MAX」の3仕様。標準仕様は、シャオミー自社開発のモーターを搭載した後輪駆動で、最高出力220kW、最大トルク400Nm、0-100km/h加速は5.28秒、1充電航続距離は668kmだ。

 高性能版の「MAX」は、デュアルモーターのAWDモデルで、最高出力495kW、最大トルク838Nmを発揮。0-100km/h加速はなんと2.78秒、最高速は265km/hにも達するなど、スペックはポルシェタイカンを凌ぐ。1充電航続距離は800kmだ。

 ただ、驚くべきはスペックよりも価格だ。中国現地価格では、標準仕様が21万5900元(約453万円)、「PRO」が24万5900元(約516万円)、「MAX」でも29万9900元(約640万円)で買えてしまう。テスラの「モデルS(69.89万元)」の半額以下、ポルシェの「タイカン(151.8万元)」に至っては、2割に満たない価格だ。

シャオミーSU7のサイドビュー。全長4,997mm×全幅1,963mm×全高1,455mm、ホイールベースは3,000mmにもなるロングホイールベース車だ

輸入BEVに補助金など出している場合ではない

 なぜ、これほど低価格で実現ができたのか。それは、クルマ本体で利益を得ている従来の自動車メーカーとは根本的に戦略が違うからだ。

 シャオミーは、人とクルマと家を繋ぐ、スマートエコシステムの構築を狙っているという。シャオミーが独自開発したOSによって、様々なハードウェアと接続し、生活を取り巻くあらゆる環境を、スマホおよびOS(Xiaomi HyperOS)を介して包括的にサポートしていくことで利益を生み出すとのこと。繋げる製品の種類は200を超えるそうで(BEV含む)、たとえば、移動中のクルマの中から、自宅のエアコンを付けて、お風呂を沸かす、ということも可能なのだろう。

 もちろん他の自動車メーカーでも、コネクティッドというキーワードでサービスを開発してはいるが、遠隔でクルマのドアをロックしたり、エアコンを操作したりなど、まだまだ大したアクションはできておらず、シャオミーの家電メーカーならではの自由なアイディアには到底及んでいない。

 「中国の、しかもスマホ(家電)メーカーがつくったクルマなんて」と思ってしまうところだが、我々が堅い頭で「中国メーカーなんて」と思っているうちに、海外でどんどん受け入れられ、市場を拡大させていったのが同じ中国の自動車メーカーのBYDだ。今回のシャオミーの衝撃はそのBYDをはるかに上回る。輸入BEVに補助金など出している場合ではないのではないだろうか。

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