バスに乗っていると、または外から見ているとバスがバス停から発車する際や、右左折の際、あるいは合流の際に「遅いな~」とぼやく方がいる。おそらく普段から車を運転している普通免許をお持ちの方が大半だろう。大型車に乗っている方はたとえ乗用車に乗っていてもそんなことは言わない。ぜひ大型車の特性とバスの特殊性を知ってほしい。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
撮影協力:信州駒ケ根自動車学校
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■発進が遅い!
乗用車ならば右左折時に対向車や歩行者が少し途切れれば「行ける!」と判断できるのでアクセルを踏む。車の性能に若干の際はあるものの、発進時にレース並みのスタートを切るのでもなければそれほど変わるものではない。この感覚が身についているので、バスをはじめとした大型車が一向に発進しないのを見るや否やイラつく人がいる。
考えてもみてほしいが、大型バスは15トン以上ある。高級セダン車でも2トン前後しかなくそもそもバスは重いのだ。大型バスのエンジンは昔は1万CC越えというモンスターエンジン車もあったが、最近は排ガス規制や燃費の関係でダウンサイジングが進み、路線車の比較的大きなエンジンでも7000CCディーゼルターボだ。
ツインターボで低排気量のパワーを補っているとはいえ、ベテランの現役運転士ならパワー不足を端的に感じるほどのエンジンで、15トン以上の巨大な車体を動かしているのだ。発進のトロさは乗用車の比ではないのはお分かりいただけるだろう。
■全長も要因
もう一つの要因はバスの長さだ。フルサイズの12m車では交差点を通り抜けるのに長さ換算だけでも乗用車の3倍の時間がかかる。それに前述のスタートダッシュの遅さを加味すると、それ以上の時間を要するので「はよ行けよ!」と後ろの乗用車が思ったところで、それはできない相談なのだ。
乗用車なら「運転席が交差点を曲がってしまえば車体も曲がり切っている」という当たり前のことがバスではそうはならないことも知っていただきたい。運転席が交差点を曲がり切ってもまだ前輪さえ曲がり始めたばかりなのだ。
バスの前輪は運転席より後ろにあるのだ。車体全部が曲がりきるのはさらに数秒後の事である。運転士はその時間も考慮して交差点に進入しているのだ。
■最も需要なのは車内?
発進の遅さや車体が長いことによる交差点進入の難しさはお分かりいただけたと思うが、最も需要なのは車内の乗客の挙動である。バスが発進するときの力で立っている乗客は体が後ろに引っ張られるのと同時に、曲がるときの遠心力でさらに左右に振られる。これは立席の乗客が最も不安定な状況に陥るときの一場面である。
事業者の社局内ルールにもよるだろうが、バスが停車し発進するときにはそれが数秒後であっても「発車します。おつかまりください」等のアナウンスを運転士が入れるのは危険だからに他ならない。
曲がるときにも「右(左)に曲がります、ご注意ください」と言ってくれる運転士もいるほど、危険な状況なのだ。よって「今ならいける!」とアクセルを踏み込むのは厳禁な運転操作であることも知っていただきたい。
■左巻き込みの危険が多くなっている?
車体が長いことによる大きな内輪差は運転士のイロハのイである。左折時に人やバイクや自転車がいないかどうかは曲がるまで目視で監視し続けるが、最近は都市部でその注意を厳にしなければならない状況にある。
それは特定小型原付である。都市部の新しいモビリティとしてルールを守って乗っている分には便利で快適なアイテムだ。しかし、何が問題なのかというと運転免許を持っていない可能性がある、それはすなわち交通ルールを知らないものとして認識しないといけないということである。
建前上は、特定小型原付の貸し出しにはオンラインによる試験をパスしなければならないのが、貸出企業の標準になっている。しかし、原付免許でさえ技能試験はないにせよ、試験場で学科試験を受験して合格した者だ。免許のない可能性がある者が運転している特定小型原付がどのような挙動をするのかはわからないのが正直な印象だ。
幅が狭い電動キックボードはバスと歩道の間に容易に入り込める。もし信号待ちで待っているバスに近づいた電動キックボードがすり抜け切れればいいが、バスが発進してしまい左折寸前であるならば、死角に入っている可能性があり危険である。
自転車でも原付でも自動二輪でも起こりうるが、自転車は交差点で大型バスがいると歩道にあがるし、左ウインカーを出しているバスを目にすれば免許のいる二輪車は右から抜くか待つことがほとんどだ。電動キックボードは法的、物理的に容易にに歩道には上がれないし、右車線に出ることは禁止されている。本当は待つしかないのだが、免許がない場合はどう動くのかわからない。
■さらに厄介な違法モペット
さらに違法モペットはもっと厄介だ。課税標識(ナンバー)を付けてヘルメットをかぶっているのであれば原付か自動二輪車として認識できるが、いかにも自転車の様相で時速40㎞くらいで飛ばしていてはもう何が走っているのかわからない。バスに並走できるほどの速度域で走り、バスが減速すると自転車の感覚で左の隙間から抜いていくのは自殺行為でしかない。
それでもバスの運転士は巨大で長い車体を安全に停めながら運行しているのだ。信号一つ逃したところで5分も10分も到着が遅れるものでもない。バスをはじめとする大型車が前にいるときは、乗用車の10倍以上の人の命を預り周囲の交通にも留意しながら安全に輸送しているということを念頭に「大きな器」を見せていただきたい。
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