人間は“限定”という言葉に弱い。本企画では限定車、少量生産車にスポットを当てていく。日本のクルマ界における過去の限定車、少量生産車が現在どうなっているのか、をテーマに展開!(本稿は「ベストカー」2013年9月26日号に掲載した記事の再録版となります)

文:編集部

■激減中でピンチ! スバル インプレッサ22B

日本で400台限定で販売されたはずの22Bだが、海外流出が止まらず、その数は激減中でピンチ

 トップバッターは、いまだに根強い人気を誇り、マニア御用達、しかも見るだけで幸せになれるクルマといえば、インプレッサ22B STiバージョン。

●こんなクルマ

 WRCで強さを見せつけていたインプレッサWRC97のイメージを極力再現すべく開発が進められ1998年3月発売開始。全長4365×全幅1770×全高1390mmでエンジンは2.2Lターボ(EJ22改)で280ps/37.0kgm。

 400台限定の500万円だったが、ほぼ瞬殺、あっという間に完売となった。

●いまどうなっている?

 インプレッサ22Bの現状について、『インプレッサ22Bオーナーズ』の会長の児玉展康氏に聞いてみた。

「まったく個人的な見解になりますが、400台販売されましたが、日本に現存するのは100台あるかないかくらいだと考えています。

 もちろん事故などにより廃車となってしまうクルマもありますが、ここまで減っている一番の要因は海外への流出です。このクルマはデビューした時から、ラリーの人気が高いイギリスなどで人気になっていて、1000万円くらいのプライスタグを付けている並行モノも存在したくらいです。その後も海外への流出が止まらず、現状に至っているという感じです。

 22Bは1998年デビューですから15年が経過していることもあり、STIで作っていないパーツも増えてきているのが悩みどころですね。

 実は私の22Bは昨年エンジンブローしたのですが、リビルトエンジンがないので、すべてパーツを集めて組み直しました。STIのほうからも“これが最後です”と、最後通告を受ける始末で、パーツ取り車が出てくるわけでもありませんから今後は少々不安ですね。

 非常にタマ数が減って大変なことになっている22B。ベストカーが調査したところ、出物はまずないが、出ても新車価格並みとはいわないまでも400万円前後の価格で取引されているケースが多いというから驚きだ。

●残存数……100台以下!?

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■世界に1台! トムス エンジェルT01

世界にたった1台しか存在しない、というだけで凄すぎ。それってクルマに乗る人間の憧れ

 22Bに続いては世界に1台しか存在しないスーパー希少価値の高いクルマが登場。その名はトムスエンジェルT01 !

●こんなクルマ

 1994年に市販を前提としたプロトタイプとして1台だけが製造されたトムス製の幻のスポーツカーがトムスエンジェルT01。トムスでは市販化を目論んでいたが結局市販は断念。しかし、プロトタイプながら登録された1台が存在する。

 全長3220×全幅1620×全高1080mmで700kgと超コンパクトかつ軽量なボディに160psの4A-Gを搭載。パワーウェイトレシオは、4.3kg/psとR35GT-R並み。デビュー当時ベストカーでも取材した経験がある。AZ-1を称してゴーカート感覚、と表現する人は多いが、エンジェルはAZ-1をワイドトレッドにしたプロポーションで、ファンなハンドリングにシビれたモノだ。

●いまどうなっている?

 このクルマは、昨年(2012年)の春に某有名オークションに出品されていて話題になった(スタート価格が1200万円!?)。落札うんぬんの話はなかったが、現在も関西地方で元気に生きている!

 残念ながら締め切りまでにオーナーと連絡をとることができなかったため詳細は控えるが、京都や神戸などで開催されるイベントなどでも目撃情報が多数あるので、メガウェブフェスタやベストカー主催のイベントに出演依頼してみようかな、と考えている次第でございます。 

 ブルネイの国王ならスペシャルメイドの世界1台のクルマっていうのも当たり前なんだろうけど、世界に1台しか存在しないクルマって……、オーナーさんが心の底から羨ましい。

 世界に1台ということは、現存するのがなくなればすべてが終わり。そうならないよう、ベストカーは陰ながら祈ってます!

●残存数……1台!

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■意外に見られるかも ASLガライヤ

マジカルカーボン&マジカルアートシートを全面貼りしてリフレッシュしたガライヤ

 市販を断念しながら、プロトタイプが登録されているクルマはトムスエンジェルT01だけじゃない!

●こんなクルマ

 オートバックススポーツカー研究所(ASL)が企画製作し、2001年に初公開。60台程度の事前予約が入っていたようだが、2005年に市販化を断念。スーパーGTに昨年(2012年)まで参戦していたので知名度、認知度は高い。

 このガライヤも市販を前提としたプロトタイプが3台程度登録されたという。当時オートバックスの社長だった住野氏、ASLの中心人物だった白木氏のほかオートバックス関係者が所有していた。

 日産の2L、直4DOHCのSR20VE(204ps)を搭載。全長3775×全幅1825×全高1185mmのワイド&ショートボディのスポーツカー。

●いまどうなっている?

 登録されたプロトタイプはすべて現存。実は本企画担当、今年6月に実車を見てきた。所有者は明かせないが、ハセ・プロのマジカルカーボン&マジカルアートシートを全面張りしてリフレッシュ。この施工によりビカモノに生まれ変わった!

 そのほかでは、湘南オートモビル・ビジネス専門学校にガライヤが教材として置かれていたが、同校が2011年に閉校したためそのモデルは消息不明。

 学校といえば、大阪産業大学。大阪産業大学のEVプロジェクトの1台がガライヤ。ガンメタのガライヤをEV化、こちらはナンバー取得できていないが、EVレースやイベントに参加しているもよう。この大阪産業大学のEVプロジェクトではガライヤのほかAZ-1もEV化されるなど、やっている先生たちがかなりクルマ好きと見た!

 ガライヤ自体の数は少ないが、イベントなどで意外に見ることができるかもしれない。

●残存数……5台!?

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■超貴重なパイクカー YMモービルメイツAMI

600台限定販売の予定で発表するも、実際に売れたのは10台もいかないAMIって超貴重

 実際には市販されずプロトタイプのみが登録された2車と違い、実際に限定販売したが非常に数が少ないクルマを紹介。

●こんなクルマ

 AMI(アミ)は、ヤマハの100%子会社のベンチャー企業、YMモービルメイツ製のパイクカーで1997年に第1号車を発表している。

 オプティをベースにフェラーリF40ルックに仕上げたエクステリアは、“街中で見た人が振り向かずにいられないようなクルマ”というコンセプトの狙いどおり、注目度抜群。実際にはフロントウィンドウ以外はオリジナルという手の込んだクルマだったのだ。

 そのため価格も高めで、215万~254万5000円(当時の新車価格)。少量生産ながらベースがオプティということで、ダイハツディーラーのサービスが受けられるというのがセールスポイント。『チケットぴあ』でのみ予約受付という販売方法も独特で、600台の限定販売となっていたが……、実際に売れたのは10台以下(すでにYMモービルメイツがないため、正確な資料がない)。それにしても目標値と実勢値のギャップったら。

●いまどうなっている?

 なかなか雲をつかむようなクルマだが、情報筋を頼りにアレコレたぐっていくと、赤が2台と黄色が1台の3台が現存しているもよう。昨年(2012年)神奈川県内で担当が見たのは赤だった。そのAMIのフロントフェンダーにはSFの盾のステッカー、リアにはFerrariのシルバーのロゴが装着され、ここまでやれば、と感心したものだ。

 オーナーさん、もしベストカーを見ていたら連絡ください、お待ちしてます。

 3台ということで中古車に出回ることはまず考えられないが、ネットオークションに出展されていながら落札されなかった、という情報もある。この時の価格は80万円くらいだったというから、担当ならそのくらいの価格だったら迷わず買う、わけないか。わずか3台しかないクルマゆえ、絶滅危惧種ではあるが、生き残ってほしい。

●残存数……3台!?

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■今後さらに高値に!? フェラーリF40

今後さらにプレミアムがつくのが必至のF40。それゆえ減少速度はガタ落ちになるハズ

 パイクカーに続いては本家本元の登場。日本のバブル時代を最も象徴するこのクルマ。

●こんなクルマ

 1987年にフェラーリ創業40周年を記念して作られたスペシャルフェラーリで、エンツォ・フェラーリが最後に手がけたクルマとしてマニアからは今でも絶大な支持を受けている。

 全長4358×全幅1970×全高1124mmで、484psの3L、V8ツインターボを搭載。当時はその強烈な加速をして、“鼻から脳みそ”が出てくると表現されたりもしたが、600psオーバーも珍しくなくなっている今ではF40の484psもショボい?

 350台限定と公表されていたが、オーダーが殺到したため1311台が作られた。このいい加減さもイタリア人気質がにじみ出ていていい。

 当時の新車価格は4650万円(買えないけど安っ!)ながら、N・マンセルが所有していたF40はプレミアがついて2億5000万円で取引されて話題になった。コーンズの扱った正規モノは59台だが、並行モノが鬼のように日本に入ってきていたのも事実。

●いまどうなっている?

 突然炎上したなんて事件もあったが、F40はやはりそれ相応にツブれて廃車になっているもよう。それでも現在日本には180台くらい存在するらしい(専門店証言)。

 2年前くらいに少し中古相場が下がり気味だったが、現在またジワジワと上がってきているというから、買うなら今(←買えるならね)。というのも、フェラーリ初の記念車で、エンツォが最後に手がけたクルマ、あと10年もすればセミクラシックの領域に入るのでF50、エンツォよりもプレミアがつくという。

 ちなみに現在の中古相場はピンキリではあるが(ネットなどで検索してもほとんどがASK)、最安値で5000万円前後。

●残存数……180台

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■今もマニア御用達 M2 1001

オーナーズクラブ『CLUB M2』代表の新藤日出雄さん。10月20日(日)には長野県、女神湖で『M2 Meeting』を主催して、M2車が約30台参加予定

 次は世界に誇るジャパニーズオープンスポーツのロードスターの限定車。

●こんなクルマ

 1991年に300台限定、340万円でM2が発売。エンジン排気量は1.6Lのままでファインチューニングにより10psアップ、ブルーブラックの特別色、15インチアルミ、ロールバー、エアプレーンタイプの給油口、バケットシートなど専用パーツがこれでもかと奢られていた。

●いまどうなっている?

 現在も自らM2 1001を所有するプロフェッショナルドライバーの出来氏はM2 1001について以下のように証言。

「このクルマ“マルイチ”って呼ぶ人が多いんですが、発売当時はオーダーが殺到して、300台に対しその7倍の申し込みがあったそうです。ノーマルのロードスターに比べると340万円の価格は高かったですが、アルミのへら絞りのミラーは左右で5万円しましたし、アルミ製のロールバーなど高額なものがついているだけでなく、エンジンが本当に気持ちよくチューニングされていたのが人気の要因だったと思います。買う人はみんな満足していましたね。

 ロードスターの生みの親である立花氏が好きなように作ったクラブマンレーサー的なロードスターですから当然ですね。

 現在も愛好家はたくさんいて、大事に乗られていますね。クルマってレースとかに使われるとその数が減りやすくなるんですが、M2 1001はアルミ製のロールバーだったこともありレースでは使えないんです。まぁ、スチール製に換えて出てた人もいますが、残存率はかなり高いと思います。

 中古相場はクルマの程度によてピンからキリまであり、走行が1万km前後のモデルなら200万円以上はします。そんなのないと思うでしょ? でもそれが意外にあったりするんです。逆に過走行のクルマだと数十万レベルでしょう。さすがに30万円以下のクルマは見たことはないですね。

 中古車屋さんで見かけることもあります。でも入ってすぐに売れる回転のいいクルマじゃないですね。好き者が見つけて買っていくというクルマです。私は中古で買って20年乗っていますが、今後数は減るいっぽうなので大事に乗りますよ。」

●残存数……200台!?

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■ほぼ入手可能性ゼロ メルセデスベンツ190E 2.5-16 エボII

このそびえ立つリアスポと、前後のオバフェンがエボIIの証。桂さん、大事に乗ってくださいね!

 続いては、メルセデスベンツのスペシャル限定車といえばこのクルマ。

●こんなクルマ

 メルセデスベンツ190E 2.5-16エボリューションはIとIIの2タイプが存在し、どちらもグループAのホモロゲを取得するための生産車で、500台ずつが生産された。

 前後の仰々しいまでのオバフェンとそびえ立つリアスポイラーが特徴。後期のエボIIでさえパワーは235psと今ではどうってことないスペックだったが、当時は画期的だった。

 ちなみにランチアデルタインテグラーレよりも三菱ランエボシリーズよりも先にエボリューションの名称を使ったのがこのクルマだった。

 日本にもエボIが3台、エボⅡが18台正規導入された。

●いまどうなっている?

 この超希少なクルマのオーナーであるレーシングドライバーであり自動車評論家でもある桂伸一氏に現状を聞いてみた。

「ボクは日本に入った18台の正規輸入されたエボIIの1台を1992年に購入したから21年目になるね。エボIIは今でも現役。といっても、2~3カ月に1回乗るくらいかな。カミさんからはもう売れば、とプレッシャーをかけられているけど、クルマ好きならこの気持ちわかるでしょ。

 エボIは3台しか日本に正規輸入されていないけど、エボIIは18台が正規輸入されている。ただ、売れなくてそのまま本国に戻ったものもある。並行モノについては、正規モノと同じくらいの台数が日本に入ってきているというので、現存するモデルは多く見積もって20台くらいじゃないかと思う。

 当然古いクルマだから故障もする。エボIIはハイドロを使っていて、アキュムレーターで車高を上げ下げするのだが、経年劣化で7~8年に1回壊れる。パーツはシトロエンのほうが安いのでそれを買って対処しているから特に問題ない。」

 今後数は減るばかりで、売り物は皆無と思ったほうがいい。ただし、ネットオークションに出されていた、という桂氏の証言もあるので、欲しいなら気長に探すことですな。まぁ、可能性は強烈に低いけど……。

 希少車にお乗りの人は、それだけで宝です。貴重です。国を挙げてバックアップするくらいしてもいいんじゃない? それがクルマ文化を育てる!

●残存数……20台!?

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【番外コラム】プレミアがつく・つかないの分岐点

そのほかの限定車&少量生産車。クルマ好きをピクリとさせる限定車たち。どれも激減中だが、日本でザガートって成功したことあるのか?

 プレミアがつくかつかないの分岐点は、いろいろな条件が重なり合っているが、人気モデルであること。これが最低限条件。

 そのほか数が少ない、古いことも重要。なぜならこれらの要素を満たすものは入手困難だから。どんなにお金をかけてでも手に入れたい、と思えば必然的にプレミアムがつくのだ。

 そのいっぽうで、“琴線に触れる要素がある”というのも非常に重要になってくる。

 これは別にクルマ好きの琴線に触れる、という意味ではない。どんな人が興味を持つかわからないから。例えば、有名画家がボディペインティングをやったとかいえば、クルマ好きはノーマークでもいくら出してでも買う、というその筋の人は存在。

 ラリー好きなら、“ホモロゲ取得モデル”と言われただけで欲しくなるというもの。

 著名人が以前所有していた、というのに価値を見出す人もいる。

 いわゆる“バックボーン”があることが必要で、これがあるなしでモノの価値はぜんぜん変わってくるのだ。

 これらの要素は、単独よりも複合したほうがプレミアム性が高くなるのは言うまでもない。

●セナの所有したNSX

 伝説のF1ドライバー、A・セナが生前所有していたホンダNSXがオークションに出品されている。セナ財団ではなくある個人の出品だという。セナは自ら3台のNSXを所有していたというが、このNSXはその1台で1993年式。ボディカラーはブラックで5万km。完全なオリジナル状態を保っている。締め切りの関係で落札価格をお伝えできないが、熱狂的なファンを持つセナだけにかなり高額になるのは間違いないだろう。

(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)

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