1980年中盤から1990年代にかけて、まさに世が浮かれていたいわゆるバブル経済の時には、日本の自動車メーカーもお金が有り余っていたのか、画期的なこれでもかというほど最新技術を投入していた。しかし、消えてしまった「がっかり技術」が存在した。ここではニシボリックサスペンション、エクストロイドCVT、プレッシャーウェーブスーパーチャージャーを紹介する。

文:ベストカーWeb編集部/写真:ベストカーWeb編集部、ベストカー編集部

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■いすゞジェミニに搭載されたニシボリックサスペンション

1990年に登場した3代目ジェミニのリアサスに搭載されたニシボリックサスペンション

 1980年代中盤~1990年代初頭にかけては4WS(四輪操舵)ブームが起こっていた。ホンダは1987年登場の3代目プレリュードで機械式4WSを、トヨタは1989年に登場したST180系セリカ/カリーナED/コロナEXiVなどにデュアルモード4WSを搭載。マツダも1987年に登場した5代目カペラ、1991年登場のセンティアなどに電制式4WSを採用するなど4WSが大流行していた。

 そんななか、1990年に登場した3代目ジェミニ(FF化して2代目)に搭載されたのがニシボリックサスペンション。いすゞの技術者だった西堀 稔氏が開発したことからこの名称になった。

 リアのサスペンションアームとそれを保持するゴムブッシュに工夫を凝らすことで、作動初期は後輪が前輪と反対向きに操舵される逆位相に、さらにサスペンションが沈むと前輪と同位相に操舵されるという画期的なもの。

 注目ポイントは、このような操舵とその切り替えが自動的に行われることで、作動に電子機器やアクチュエーターなどの介在がなかった。

 理論上ではターンインでスッと曲がり定常旋回ではスタビリティが高まるはずだったが、実際には定常旋回に入っても逆位相が継続する傾向が強く、運転感覚としてはオーバーステアが強く感じられるものだった。

 この後輪ステアの考え方は日産のHICASやホンダの4WSなどと同じなのだが、ニシボリックサスは後輪ステアを電子制御やリンケージなどを使うことなくサスペンション自体の構造でパッシブに動かそうとしたところがポイント。

 それだけに動きの制御が難しく、理論上の動きをしてくれない場面が多く発生してしまったのだろう。狙いはよかったのだが煮詰めが甘かったため、がっかりな結果となってしまった。

 しかし小回り性能を高める低速時の逆位相が通常の2WS車の動きになれたドライバーにとって違和感が大きかったことと、そもそも回転半径がそれほど大きくない乗用車ではあまりメリットがなかったことなどから1990年代後半には消えていってしまった。

 電制技術が進化した現代では、後輪を緻密な制御により操舵することで高いハンドリング性能を作り上げているレクサスGSの「LDH」などに進化している。スカイラインやフーガのリアにもHICASの進化版が採用され、高い操安性の実現に寄与している。

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■セドグロ、V35スカイラインGT-8のエクストロイドCVT

1999年11月に発売された日産セドリック、グロリアに搭載されたエクストロイドCVT

 自動車の速度はエンジンの回転数とギヤチェンジによって調整される。現在の日本でメジャーなのは自動的にギヤチェンジを行うオートマチックトランスミッションだ。こちらはトルクコンバーターという機構を使うシステムだが、無段階変速が可能なCVT方式を採用したクルマも多い。

 “トルコン”式に比べてCVTでは変速時のショックがほぼなく、燃費が良いなどのメリットがあり、コストも抑えられるために軽自動車でも数多く用いられている。しかし、エンジンパワーが大きくなると効率が落ちるなどの問題もある。現在はCVTステップ制御によってだいぶ伝達効率やドライブフィーリングも向上している。

エクストロイドCVTの基本メカニズム

 こうした問題を解決するために生み出されたのがエクストロイドCVTだった。1999年11月に発売されたセドリック&グロリアに採用されていたのがこのエクストロイドCVT。価格は300LX-Z Sパッケージ(セドリック)の477万円とATモデルよりも50万円高となった

 エクストロイドCVTの基本メカニズムとしては、変速機の中心はディスク(入力&出力ディスク)とパワーローラーから構成される。エンジンの動力を受けた入力ディスクの回転は、パワーローラーから出力ディスクへと伝えられる。パワーローラーの傾きを連続的に変えることで、滑らかな無断変速を行う。

 従来のベルト式CVTとは異なり、ディスクとパワーローラーによって動力を伝達するのが特徴。それまでのCVTの弱点だった大排気量&高出力にも対応し、素早いレスポンスと滑らかで力強い加速を実現。さらに従来のオートマ車に比べて約10%の燃費向上も達成していた。

 ここまで見る限りでは理想的なトランスミッションに思えるエクストロイドCVTだったが、最初の問題は製造コストで、部品点数が多く複雑な構造になるエクストロイドCVTはどうしてもこの難点を解決できなかった。

 また、複雑ゆえにその取り扱いもデリケートであり、高価な専用オイルが必要なこと、そして故障の際に部品交換ができず、トランスミッションを載せ換えなくてはならないことなど、問題点は多かった。

2002年V35スカイライン350GT-8に搭載するも、その後の展開はなく消滅した

 鳴り物入りで登場したエクストロイドCVTだったが、上記の問題は根が深く、1999年にY34型セドリック/グロリア、2002年V35スカイライン350GT-8に搭載するも結局2004年をもって生産を終了。予想外の短命に終わってしまった。

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■カペラのプレッシャーウェーブスーパーチャージャー

マツダが実用化したプレッシャーウェーブスーパーチャージャー。主な搭載車は5代目カペラ、クロノスだった

 スーパーチャージャーは知っているという人が多いが、プレッシャーウェーブスーパーチャージャー(PWS)は初めて聞いたという人が多いハズ。1987年5月に量産車初のPSW付きディーゼルエンジンがマツダカペラに搭載された。

 ガソリンエンジン並みの高性能だったが、アクセル操作に対する反応の良さも優れており、「圧力波式過給機」や「コンプレックス過給機」とも呼ばれている。

 具体的には、ハニカム構造の円筒形ローターがクランクシャフトの回転によって駆動。ローターの一方から排気ガスが入ると、内部のセルに吸入された新鮮な空気を圧縮して反対側から押し出す。

カペラに搭載されたプレッシャーウェーブスーパーチャージャー(当時のカタログより)。RF型1998㏄、直4SOHCディーゼルエンジンには量産エンジン初のPWSを搭載し、82ps/18.5kgmを発生

 その後、排気ガスは出口から排出されるが、その際に発生する負圧を利用して再び反対側から新鮮な空気を吸入し、次の排気ガスによって加圧して送り出すというサイクルを繰り返すことで、エンジンに多くの空気を送り込める。 ディーゼルエンジンとの相性がよい。

 PWS付ディーゼルエンジンはこまめなメンテナンスが必要不可欠であり、それを熟知していないオーナーの不注意によるトラブルが増加し、5代目マツダカペラとその後継車、マツダクロノスに搭載後は一般的なターボチャージャーが搭載された。まさにがっかりのひと言。

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