デザイン・ハイブリッドシステム・先進技術など、何もかもが新しすぎた2代目プリウスは、実はレーシングカーのトップカテゴリーであるF1と密接にかかわっていたらしい。一体どういうことなのか。F1とエコカー、対極にありそうな2つの関係性に迫っていく。

文:佐々木 亘/写真:トヨタ ほか

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■世界へ向けたプリウスを作るために

2003年登場の2代目トヨタ プリウス。開発においてTMGにも意見を求めている

 2002年から2009年まで、トヨタはF1に参戦していた。母体は、ドイツのケルン本拠を置いていた「トヨタ・モータースポーツ有限会社(TMG)」である。現在は、トヨタ・ガスー・レーシング・ヨーロッパ(TGR-E)と名称を変えており、こちらの方が知られた存在であろう。

 2代目プリウスの開発陣は、走りと環境という、一見すると矛盾しがちな要素を共存させることに成功した。それは、ハイブリッドカーが未来に向けて、広く世界に普及するために必要なことだったのだ。

 そのため、2代目プリウスの開発においては、海外のエンジニアやデザイナーに率直な意見を多数求めている。その中の一つにTMGがあった。

 世界最速の走りに情熱を注ぐ彼らの目に、2代目プリウスはどう映ったのであろうか。

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■燃費性能アップと走行性能の向上はプリウスもF1も同じ

2002年、トヨタはTF102でF1に参戦。ドライバーにはミカ・サロとアラン・マクニッシュを起用した

 プリウスとF1の共通点は多いと、当時のTMGのエンジン部門ゼネラルマネージャーであるルカ・マルモリーニ氏は語る。

 「大きくいって効率を求めるということは性能そのものですからね。燃費という目でもF1レース戦略においては、同じ燃料で10周よりも11週できた方が有利(中略)。

 各コンポーネンツをコンパクトにして軽量化と運動性能向上を図り、プリウスは燃費向上を、F1はスピードアップを狙う。軽量化への取り組みという面でも共通点がある。」

 猛烈な勢いで加速し、驚くべきスピードで曲がっていくF1カーは、見方を変えれば究極のエコカーということだ。定められた燃料の範囲で、最大限の出力を発揮するために、エンジンの効率化はもちろん、空力、軽量化とあらゆる手段で「速く・長く」走れるようにしている。

 ここにプリウスの場合は、乗用車としての快適性が加わるわけだが、世界最高の燃費を誇るエコカーを作るのも、世界最速を目指してF1カーを作るのも、こだわりポイントは大きく変わらない。

 そして、プリウスはF1開発グループにとって、魅力的なモノに見えたという。

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■プリウス登場から約5年……ついにF1にもアレが入った

2009年にはTF109でF1を戦ったトヨタ。この年を最後にトヨタF1の第一期は終焉を迎えることになる

 ルカ・マルモーニ氏は、プリウスのハイブリッドシステムの中で、回生ブレーキに強い興味を持っていた。回生ブレーキとは、制動時にモーターを発電機として作動させ、運動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリーに回収するシステムだ。

 回生ブレーキは、プリウスが世界最高峰の燃費を達成するための核となる技術であるわけだが、この技術は2009年のF1から「運動エネルギー回生システム(KERS)」として、実際のレースで使用されている。

 エンジンの燃焼効率や空力という点では、プリウスがF1をお手本にしていたのだろうし、回生システムではプリウスがF1に手本を示した。お互いがお互いにとって「シナジー」だったのだろう。

 トヨタがもう一度F1の世界に戻った時、もしかすると私たちの想像を大きく超えた、新しいプリウスがまた誕生するかもしれない。

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