スカニアが鉱山での自動運転トラックの商用化を進めており、「ロードトレイン」の自動運転など、オーストラリアで複数のプロジェクトを発表している。
トラックの自動運転は世界的に深刻化するドライバー不足の解決策とされるが、危険が多く環境への影響も大きい鉱山開発の現場では、道路輸送にも増して必要とされる技術で、持続可能な鉱業を実現するための重要な選択肢となっている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Scania AB
スカニアが鉱山用トラックで自動運転技術を商用化
スウェーデンの商用車メーカー・スカニアは鉱山開発をより効率的に、より安全に、そしてよりサステナブルにするため自動運転トラックの活用を推進している。
同社は世界有数の鉱山地帯である西オーストラリアのピルバラ地域で、鉱山会社の協力のもと自動運転トラックのトライアルを実施してきたが、この度、鉱山業界向けの自動運転トラックを市場投入することが決まったようだ。
2024年9月27日には鉄鉱石の採掘で世界的な大手企業、フォーテスキュー・メタルズと共同で鉄鉱石運搬用のロードトレインを自動運転すると発表、また10月8日にはリグループとともに、マンガン鉱石運搬用の自動運転フリートを構築すると発表している。
オーストラリアの輸送風景の代名詞ともなっている「ロードトレイン」は、1台のトラック(「プライム・ムーバー」と呼ぶけん引車)に複数台のトレーラを多重連結したもので、鉱石の輸送などに活躍する。
今回、プライム・ムーバーとしてスカニアの「R770」に自動運転用のハードウェアとソフトウェアを搭載し、3台のトレーラを連結する。積載量が120トンから240トンにもなる厳しい使用環境で、スカニアにとっては困難な条件下での自動運転に関する経験を積む機会でもある。
両社はオーストラリアの鉱山開発で長年にわたり提携しており、フォーテスキューのクリスマス・クリーク鉱床からの鉄鉱石輸送で自動運転ソリューションの開発を進めてきた。
フォーテスキューは車両の稼働率を向上し生産性を最大化するため独自のフリート管理システムを構築しているが、ここに自動運転システムを組み込むことで、燃料消費を最小化し、二酸化炭素の排出量を減らすことができるという。
スカニア・オーストラリアで鉱山事業を担当するロバート・テイラー氏は「フォーテスキューは非常に過酷な環境で重量物を運搬するトラックを運用しており、世界的な鉱山会社の助言は、自動運転に効率と安全性をもたらすのに役立ちました」と話している。
リグループと自動運転フリートを構築
いっぽう、同じオーストラリアの鉱山サービスプロバイダーであるリグループとの自動運転フリートの商用化は、スカニアの「G560」トラックの8×4リジッドダンプを自動運転するもので、合計11台によるフリートを構築する。やはりピルバラ地域にあるブッチャーバード鉱床の「エレメント25」で、2025年末までに運用を開始する予定だ。
多数の自動運転トラックによるフリートの構築は両社にとってマイルストーンだといい、世界中の鉱山会社から注目を集めそうだ。
民間の鉱山開発会社であるリグループは鉱石のバルク輸送も請け負っている。自動運転トラックの導入は変革の「第1フェーズ」だといい、今後は電動化も検討している。同社のマネージング・ディレクター、マイケル・スティル氏のコメントは次の通りだ。
「私たちはスカニアとともに、イノベーションと持続可能性にコミットしています。自動運転ソリューションの統合は鉱山の運営にとって革命的なことですが、私たちはさらに車両の電動化も進めて行きます」。
なお、同社はブッチャーバード鉱山での水運搬用にスカニアの8×4バッテリーEVトラックも注文しているそうだ。この提携には戦略的な側面もあり、エレメント25で採掘されるマンガンはバッテリーの素材として不可欠で、両社にとって電動化や循環型経済を実現する上で重要な資源だ。
鉱山での自動運転によりドライバーの仕事がなくなるものではなく、両社は人間が危険を伴う現場に向かう機会を減らすものとしている
「自動運転フリートはコスト低減と脱炭素を支援するもので、ドライバーの仕事を奪うものではありません。彼らの職場が、危険な現場から自宅の近くにあるコントロールルームに変わるだけです。関係者全員が『ウィン・ウィン』の関係です」。(テイラー氏、およびスティル氏)
自動運転フリートは、従来は積載量が100~200トンの巨大な鉱山用ダンプで行なっていた輸送を、同40トンの自動運転トラックに置き換えることで燃料消費と環境負荷を最小化する。小型で効率的な運用が可能なトラックにより、輸送量を維持しつつ燃費向上を図る。
鉱山での自動運転は「今」必要?
こうしたプロジェクトによりスカニアは鉱山業界をより安全で、よりサステナブルで、より効率的にするというビジョンを初めて商用化したわけだが、これは時宜にかなった動きだという。
なぜなら鉱山業界はこの数年、複数の深刻な課題に直面しているからだ。鉱山開発の安全性と環境に与える影響、膨大なエネルギー消費とそれによるコストの増大、非効率な運行と熟練労働者の不足など、業界は解決策を真剣に模索していた。
スカニアは自動運転トラックが「効率」「安全」「持続可能性」の各側面からこれらの課題を解決すると考えている。
効率面では車両が常に最適な経路を選択し、また一定速を保つことで燃費が向上する。世界的なドライバー不足が続くなか、危険な作業を自動運転に任せることで人員の最適な配置が可能となる。鉱山用ダンプと異なりトラックは大抵の場所を通行可能であり、鉱山の稼働率が向上、さらに勾配にも強いので全体的な輸送スピードも上がる。
安全性に関しては、危険な場所にドライバーを向かわせる必要がなくなることが大きいが、自動運転トラックはLiDAR、レーダー、GPSなどあらゆる場所に「目」がついており、人間の認識の限界を超えて先を見通すことができる。
さらに短距離コミュニケーションのV2X(Vehicle to everything)技術により、車両が他の交通(自動運転車、トラック、施設など)と無線で「会話」が可能だ。スカニアの自動運転システムは独立しており、車載ソフトが人間のコマンドなしで車両を動かしている。ただしコントロールルームによるバックアップや、人間によるオーバーライドも可能となっている。
持続可能性については、道路を走っているトラックがベースなので、鉱山専用の巨大ダンプより燃料の消費量がはるかに少ない。鉱山開発が早く安価になるほか、大地へ与える「傷」も小さく自然環境のレストアも容易だ。また、車両が小型化することでよりアジャイルなアプローチも適用できる。狭い輸送路にも複数台を投入でき、電動化の準備もできている。
ドライバー不足への対応と安全性の向上、環境負荷とコストの削減、運行効率の改善、そして電動化への備えなど、スカニアは自動運転トラックは鉱山業界の未来のために必要とされている選択肢だとしている。
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