「働き方改革」や「物流の2024年問題」により、かつてなくトラックドライバーの働き方に注目が集まっているが、そもそも日本のドライバーの働き方は諸外国と比べてどうなのか? 日米欧で働き方の「法規」を比較してみた。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/ボルボトラック・スカニア・ダイムラートラック・フレイトライナー・ピータービルト・フルロード編集部
*2024年9月発売トラックマガジン「フルロード」第54号より

■あらためて日本のトラックドライバーの働き方基準となる「改善基準告示」は?

日本の場合、運転手が運転以外の業務を行なう時間が長く、実際の仕事内容は千差万別。「運転手の働き方」に現実を反映した統一基準を設けることが難しい

 トラック運転手の皆さんには今更な話ではあるが、連続運転4時間につき30分以上の休憩(通称「430」)など、日本の運転手の働き方の基準は、厚生労働省の「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」、いわゆる「改善基準告示」に定められている。

 これは平成元年(1989年)に、当時の労働省告示として発効したもので(平成元年労働省告示第7号)、その後、数度に渡って改正され、最新の基準は働き方改革関連法に合わせて2024年4月1日から適用されている。

 島国である日本ではトラックで国境を超えることがないため、後述するAETRのような国際合意によりドライバーの働き方の基準調和を図る動機はあまりないが、2024年改正基準の運転時間、休息期間、連続運転時間など欧州を参考にした跡もみられる。

働き方の基準があまりに厳しいと、過労運転を防ぎ事故をなくすという本来の目的に反し、「規則を守るために」疲労しかねない

 物流がトレーラ化されている欧米と比べて単車トラックが多く、運転手が荷扱いを行なうことも一般的で、このため「運転時間」だけでなく「拘束時間」の基準が重視される。1カ月や1年など、長期の拘束時間に基準を設けるのは日本だけで、他方、週次休息(休日)の期間等に基準がないのも欧米とは異なっている。

 拘束時間、休息期間、平均運転時間、連続運転時間、休憩時間など、細かな数値がハードコーディングされているため硬直的な内容となっており、その分「例外」や「努力義務」「ただし書き」も多く、現実に即した柔軟性の確保に苦慮している。大雑把な枠組み以外は運転手に任せる米国の「窓」規制とは対照的だ。

拘束時間・休息期間・休憩時間等、細かく時間が決められた日本の改善基準告示

■ドライバーの実状を反映した米国の「アワーズ・オブ・サービス」とは?

1運行の距離も期間も長い米国の長距離運転手。目的地までの時間と距離と場所を考慮して、いつ休憩・休息を取るのかといったプランが立てやすい基準が設定されている

 米国ではUSDOT(米国運輸省)/FMCSA(連邦自動車運輸安全局)が、トラック運転手の労働時間(オン・デューティ)、非労働時間(オフ・デューティ)、運転時間などを〝Hours of Service(HOS)”として規定している。HOSが導入されたのは2013年だ。

 特徴的なのは「ウィンドウ」(窓)によって時間を区切っていることだ。これは「枠」(窓枠)の大きさを決め、いっぽうに基準を設ければ他方は自明となる形の基準である。

 1日の労働時間を「n時間まで」とした場合、1日の長さは24時間なので非労働時間は「(24引くn)時間以上」となることが自動的に決まる。

 労働時間は、1日(24時間)に対して14時間、7日間(1週間=168時間)に対して60時間、8日間(192時間)に対して70時間という基準値が設けられている。1日14時間の労働時間に対して運転時間は11時間だ。

 連続運転は日本の2倍となる8時間まで認めており、連続運転に対する休憩時間は30分以上で日本と同じ(つまり「430」ならぬ「830」休憩)。

 1日の運転時間は合計11時間までだが、労働時間に14時間という窓があるため、3時間までの休憩は運転可能な時間に影響しない。

 どのように休憩をはさむかは運転手の裁量に任され、たとえば長距離輸送では8時間走った後に約1時間の休憩をとり、残りの運転可能時間(3時間)で移動しつつオーバーナイト(宿泊)可能な場所を探し、見つかり次第1日の仕事を終えるというような働き方となる。

北米で普及するボンネットトラックの室内空間の広さは圧倒的。同じスリーパーキャブでもさまざまな広さ、タイプを設定しており、クローゼット、冷蔵庫、電子レンジ、テレビなどの装備が充実したものもある。こうした装備は休息等を取る際の疲労軽減にもつながる

 大陸を横断する米国の長距離輸送は、1運行が1カ月以上に及ぶことも珍しくないが、7日間の労働時間の合計が60時間を超えてはならず、8日間の合計は70時間を超えてはならない。

 そして、連続34時間以上の長い休息、つまり休日により、すべてのカウントがリセットされる。米国ではEログ(運転を電子的に記録する装置)が義務化されており、デジタルでも管理しやすい方式だ。

 日欧に比べると大雑把な「オン・オフ」による枠組みだが、追加制限が検討された際には研究者によるドライバー調査で有益性が否定され変更が撤回されたこともあり、実状をベースにしたある意味で合理的な仕組みである。

シンプルな枠組みとなっている米国の基準。日本や欧州と比べわかりやすい

■日本と似ている!? 欧州連合の「EU規則第561号」では?

欧州では国境を跨ぐ国際長距離輸送も多く、走る距離や期間も長い。国際輸送を行なうための環境が整い、働き方も国際基準に近い共通ルールが敷かれている

 トラック運転手の働き方に関して、より複雑な事情を抱えているのが欧州だ。

 EU(欧州連合)は一つの経済圏を実現するという理想を掲げているとはいえ、実際には多数の国家の集まりで、トラックで国境を超える国際輸送の機会が多い。

 国境をまたいで働き方の基準が変わると、運転手の労務管理が著しく困難になるため、基準の国際調和が必要とされた。

 EUには加盟国の法整備を待たずに効力を発する「EU規則」というものがあり、運転手の働き方は2006年のEU規則第561号に規定されている。

 さらに、国連の欧州経済委員会(UNECE)に国際輸送に従事する自動車運転者の働き方に関する合意(AETR)があり、2010年にEU規則と同等のルールが導入された。

 したがって、EU加盟国と欧州経済圏、AETR調印国は原則として同じルールが適用される。その範囲は欧州と陸続きの中央アジアにまで及び、事実上の国際標準に近い共通ルールとなっている。

ボルボFH16のインテリア。欧州規則ではドライバーの車内休息の要件に「睡眠のための装備」と「停車中であること」が定められている。快適なベッドは法規対応でもある

 基準は日本と同様に細かく数値を規定しているが、連続した長い休息(=週次休息、休日)によって週を区切っている点は米国と同様。

 トレーラによる物流を前提に、拘束時間ではなく運転時間の制限を重視しており、連続運転に関しては、4.5時間につき45分以上の休憩が必要な「4545」休憩だ。

 この休憩時間は日米より長く、最近は45分の休憩中にバッテリーEVの充電を行なうことを前提にトラック用充電規格の国際標準化を目指すなど、電動化においても共通ルールの優位性を活用している。

 複雑な背景を逆手にとり、自らルールを設計することでEUの国際競争力強化に繋げようという、欧州らしい手口ともいえる。

日本と同様に細かく基準が設定される欧州連合のルール

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