ドイツが誇る2大自動車メーカーの巨頭、メルセデスベンツとBMW。今回はその中でもアッパーミドルセダンに当たるEクラスと5シリーズの新型を真っ向比較しながらその実力を水野和敏氏が評価していく。
※本稿は2024年8月のものです
文:水野和敏/撮影:奥隅圭之
初出:『ベストカー』2024年9月26日号
■真っ向ライバル2台の評価は?
今回は王道の真っ向ライバルの2台を比較しながら評価しましょう。ベンツEクラス220d AVANTGARDEとBMW523d xDrive M Sportです。
ともに直列4気筒2Lディーゼルターボを搭載するモデルです。価格はEクラスが921万円(試乗車はAMGラインパッケージのオプションが装着されるなどにより1200万円)、5シリーズが918万円(試乗車はオプション装着により990万円)です。
オプション抜きの価格で考えても、523dは4WDですから、FRのE220dよりもハイバリューな価格設定です。
Eクラスと5シリーズは本国ではもちろんのこと、アメリカでも日本でもアッパーミドルサイズサルーンのど真ん中で競合し続けている2台です。
最新型ではEクラスが全長4960mmに対し5シリーズは5060mmと100mm長く、全幅もEクラスの1880mmに対し5シリーズは1900mmで、ひと回り大きくなりました。
滑らかな曲面を活かしたフォルムのEクラスに対し、5シリーズは前後バンパーなどにエッジを効かせた直線的なフォルムのため、実際のサイズ差よりも5シリーズは大きく見えます。
5シリーズはフードを高くしてボリューム感を持たせたエンジンルーム部分と、高さが低く小さく見えるフロントウィンドウを組み合わせて、相対的にキャビンを小ぶりに見せるスポーツクーペのようなシャープで躍動感がある精悍なプロポーションを作りだしています。
ウエストラインと段差が付いてつながるフード後端のデザイン処理をEクラスと比較すると、違いがよくわかります。
一方Eクラスのフードはやや低めで、フロントウィンドウの高さと見栄えはガラスエリアが大きく見えるプロポーションを作っています。しかも前後バンパーとつながる部位なども曲面を使った造形にして、ソフトで優雅な印象を演出しているのは、5シリーズと対照的です。
これはメインマーケットであるアメリカでの嗜好を見据えた戦略的なデザインと思われます。
5シリーズは、西海岸地域で成功している、若くてアクティブなビジネスマンや、弁護士やベンチャーなどの個人事業主が好む、走りと躍動感があふれるデザインを狙う戦略。
一方Eクラスは、フォーマルで少し保守的な東海岸地域を主要マーケットとして狙っています。英国的な格式を残す富裕層に向けて上質感を演出させたプロポーションです。特に富裕層の奥様は大切なターゲットカスタマーです。この2車には明確な市場戦略の違いが見て取れます。
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■高い次元で好敵手となる
Eクラスはボンネットフードとグリル部のパーティングラインがキッチリと詰められていて緻密です。また、フードパネル先端が若干低く設計され、これによって、高速走行時の風切り音の発生も抑えられます。
5シリーズの同じ箇所を見ると、キドニーグリル上辺がフードパネル前端よりも低く段差が生じています。
とはいえ、空力面では両車ともにしっかりと取り組んでいることがわかります。
Eクラスのフロントマスクはなんとも有機的なラインで構成されていますが、例えばバンパー両端部には平らな面が作られていて、正面から受けた走行風をタイヤハウス内側に向ける流れと車体側面に流す分をきれいに分離して制御をしています。
さらにフェンダー開口部はギリギリまで詰められており、余計な風を巻き込まない設計。ホイール面は完全にツライチで、ホイールのデザインはタイヤハウス内の空気を吸い出すエアロ形状です。5シリーズは隙間を詰める余地が少しあります。
キドニーグリルが大きく目立つ5シリーズの顔ですが、バンパー下端のエアダム形状や、両端コーナー部の角度や側面の水平面の取り方などはレーシングマシンのように機能を考えた形状となっています。リアバンパーの両端コーナー部は事前に小さな乱流を発生させて、後方に巻き込む大きな風の流れを抑えます。
床下の整流はEクラスのほうがフラットな配置に徹しています。リアサスアームのカバーは当然装着。マフラーのタイコは左側に配置していますが、楕円形状にしてフロアカバーとツライチです。5シリーズの床下は、最後端部、トランクの下には横方向に配置したメインマフラーがあるのでカバーがありません。
Eクラスのリアバンパーの形状も空力に大きく効いています。後端部では絞り込んだ形状としていますが、側面からつながる部分では直線的な平面部を作り、ボディサイドを流れる風をバンパー後面に巻き込ませないよう、スッと後方に流しています。
トランクリッドを見てください。5シリーズはリアウィンドウに対しノッチを作って比較的高い位置で平面を作っていますが、Eクラスはラウンドしたルーフラインから滑らかにリアウィンドウが傾斜し、トランクリッドにつながるラインを形成しています。
空力的には5シリーズの造形のほうが有利なのですが、Eクラスはルーフ後端を大きなRの曲面にして乱流を防止しています。また、トランクリッド後端をダックテール状に跳ね上げた形状にして風の流れを上方に変え、車体後部に巻き込む風量を減らすことで車体後部に発生する渦を低減しています。
独特なエレガントさを感じさせるプロポーションを、空力を向上させながら両立させる技術のノウハウの見せ場です。5シリーズは、セオリーどおりにダイナミックなプロポーションを作っています。
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■両者ともに最新のサスジオメトリー設計
エンジンフードを開けて車体構造を見ます。Eクラスも5シリーズも、サスアッパーが大きく内側に倒れ込んだ位置にあります。また、ホイールセンターに対し後方にオフセットしています。8度程度のキャスター角が大きなサスジオメトリーです。
転舵をすると両車ともに操舵量に比例してネガティブキャンバーが増大していきますが、最大転舵ではEクラスのほうがキャンバー角は増加しています。Eクラスのほうがロール量が大きいためで、その分キャンバー角度を付けてタイヤの接地面を均一に保っているのです。
またこれも両車に共通の構造で、ボックス構造とした頑強なフロントクロスメンバーとサスアッパーをつなぐ補強プレートが入っています。スモールオフセットなど厳しくなる前面衝突に対応させた車体構造です。
従来からの40%オフセットだけでなく、より厳しい25%オフセット衝突や後席乗員規定追加などへの対応と思われます。
エンジンの搭載位置は両車の考え方の違いが明確に現われています。ホイールセンターに対し、Eクラスのほうが5cm程度前方にエンジンが搭載されています。
5シリーズは徹底してフロントミドシップにしています。エンジン先端がホイールセンター軸よりも後方に位置しています。BMWは直列6気筒も搭載するため、4気筒だと完全なフロントミドシップになります。
前後重量配分的にはBMWのレイアウトが優れますが、縦置きエンジン+トランスミッションを後方に配置することは、大きなトランスミッションがキャビンスペースに入り込むことになります。運転席を見ると、5シリーズのほうがフロアトンネルは大きく、前席の足元空間に張り出しています。
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■インテリアは両社の考え方の違いが明確化
それにしてもEクラスのインパネは強烈です。全面液晶パネルで覆われています。助手席側にも液晶パネルが配置され、カーナビ画面はもちろんですが、動画を映すこともできます。
はたしてここまで必要なのでしょうか? 先進性をアピールしたいEVならこれもありとは思いますが、正統派のラグジュアリーサルーンであれば、もっと人の感性や操作性に寄り添った、安心感を感じるインパネや空間がよいと思います。なにやら情報化社会に追い立てられているような落ち着かない室内です。
対照的に5シリーズのインパネは本革表皮を主張させたソフトパッドです。メーターパネルはセンターモニターと連続させた液晶ですが、表示部分を過度に大きくせず、上質感と豊かさを主体にした演出のインパネです。どちらが正解だということではありませんが、私は5シリーズのインパネのほうが落ち着きます。
とはいえEクラスは運転席に座ると、ドライバーが運転中に必要とする速度計やタコメータなどの情報が、ステアリング後方に配置された独立した液晶パネルに集中的に表示されるので、これはとても見やすいですし、運転者の集中力を邪魔しません。
一方でその他、ナビ表示やIT関連はセンターから助手席前面にかけた大型パネルを使うように、完全に「運転用」と「その他用」で液晶パネルを切り分けています。このパネルは面積が大きいのですが、前面パネルが完璧にマット処理されていないため反射して、走行中も少しうっとうしさを感じます。
また、タッチパネルの操作による、指の跡(指紋)が汚らしく見えてしまいます。表面は無反射のマット処理にしてほしいです。
シートはいかにもベンツのシートで、座面や背もたれの形状は窮屈さを感じさせませんが、しっかりと腰やお尻をホールドします。表皮もキルティング加工をしているため、着座すると体重で伸びて包み込むように身体にフィットします。
ドラポジもベンツ各車に共通して、適正でペダル配置も自然に足を伸ばした位置にABペダルがあります。フロアトンネルが小さいため、左側の足元空間に余裕があります。
5シリーズもシートに不満はありません。表皮は体重でほどよく伸びて身体にフィットします。座面先端が伸びる構造なのは腿裏のホールドを調整できて嬉しいのですが、電動にしてほしかったです。
ペダルは全体的にやや右側にオフセットしています。フロアトンネルが大きく張り出している影響ですが、スッと右足を下ろした位置にブレーキペダルがあるので、アクセルペダルは意識して足を右にずらさないと踏めません。踏み間違い防止にはよいペダル配置です。
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■大きく改善されたBMWの後席乗降性
前席の乗降性は5シリーズのほうが足の通過性に優れます。Eクラスはサイドシルがやや厚く張り出しているため、少し「よっこらしょ」となります。
サイドシルが張り出しているのは、床下を流れる風を車体側面に吹き出さないためのスカート形状のためでもあるので、ある程度はやむを得ないところです。5シリーズもシルは太いのですが、床面との段差が浅めで、足の通過性は悪くありません。
Eクラスの後席ドアは従来と比べてずいぶんと後方にずれましたね。BMWは以前から極端なキャビンバックで、それがアイデンティティでもあるのですが、EクラスはBMWほどではないものの、ややキャビンバックのプロポーションとしてきました。
そのため、後席ドアの開口部は足元が狭く、乗降性は前型より劣ります。全体的にベンツの「おもてなし」感は少し稀薄になりました。
今回の5シリーズの後席の乗降性はよくなりました。乗降時に背中が当たる後席背もたれ端部の形状なども、Eクラスより5シリーズは段差がなく、スッと背中を滑らせて乗り降りできます。座面端の着座に関係がない部分を斜めに切り落とした形状も乗降時のお尻の引っかかりを防ぎ、スムーズです。
ただし、いつものリアドア後端、窓部分が後方に長く飛び出す形状はいただけません。特にドアを開けて乗り込む際、身体をいったん引かないと当たります。
後席に座ると、クッションストロークがしっかりとあるため身体がスッと沈み込んで包まれます。また、表皮が滑りにくいので、力を抜いて体を預けられます。
サイドシルと床面の高さ(深さ)も、Eクラスでは、跨ぐような姿勢での乗り降りになります。
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■BMW523dの走行フィール
さて、いつものようにゆっくりと歩くほどの速度でハンドルを大きく、ゆっくりと左右に切ります。切り始めからスッと反応し、操舵量に対する反応はリニアです。左右の反応差はまったくありません。車体剛性やサスペンション取り付け部の剛性、ステアリング機構の剛性や遊びがしっかりと管理されています。
これはBMWのどのクルマに乗っても同じ感覚です。FRだけではなくFFの1シリーズや2シリーズでも同じ基準で仕上げらているのです。低速域から速度を上げていっても、この感覚は一定で変わりません。
40〜50km/hで走ると、ロードノイズはほとんど感じません。タイヤのよさもありますが、足が路面の微小な凹凸を減衰力を効かせながらいなしています。0.03m/sec付近の減衰は抜いているのですが、0.08m/sec付近では減衰を立ち上げて動きを抑えています。いやなブルブル振動が残りません。硬めの乗り味に感じますが、突き上げがないのでスッキリとした乗り味なのです。
コーナリングでは、以前のBMW車はフロントがソフトに動いて、リアでガッチリ抑え込む動きでしたが、この5シリーズはフロントをしっかりと抑え込んで、リアの追従性でバランスを取る、今までと違うセットです。前後の動きに位相遅れがなく、安心感がある操縦性です。
2Lディーゼルターボは2500rpmまではいいのですが、それ以上回してもトルクが頭打ち。もうちょっと上まで、ドンと押し出すトルクレスポンスが欲しいです。
ブレーキは若干フロント寄りです。もう少し後輪の接地を活かす制動配分だと姿勢がより安定します。
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■ベンツE220dの走行フィール
例によって歩くほどの速度で大きくステアリングを切ると、5シリーズよりも少しダルな反応です。
タイヤが路面を叩く「ザラ感」を感じます。タイヤは両車ともにピレリPゼロで同じですが、ロードノイズはやや感じますし、乗り心地もやや角感があります。
極微小入力域のいなしは、Eクラスより5シリーズのほうが優れていて、このEクラスはちょっとコツコツした感じが出ます。
2Lディーゼルターボは力強さがあります。アクセルを踏んだ瞬間のISGアシストモーターの初期アシストも効いていますが、ハーフスロットル3000〜4000rpmのトルクにも押し出し感がありますし、伸びもいい。エンジンはベンツのほうが力強いです。
速度を高めたコーナリングでの前後バランスはいいですね。安定感のある挙動です。このあたりはEクラスも5シリーズも共にハイレベルです。
ブレーキは後輪の接地をしっかりと使っていてバランスがいいです。
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■BMW 523d xDrive M Sport:94点
新型5シリーズは完成度が高いクルマで、BMW車の魅力であるスポーティな操縦性をバランスよくまとめ、従来はやや苦手だった上質感のある乗り味も感じさせる造り込みをしっかりと仕上げてきた。重い重量と強力な駆動トルクを持つEVとのプラットフォームの共用化が寄与していると思われる。
その結果、車体やシャシーに余力ができ、ロードノイズの抑え込みや、路面の微小凹凸を乗り越えるゴツゴツした突き上げを感じさせなくなった。
敢えて課題を挙げれば、2Lディーゼルターボがややパンチ不足。2500rpm以上での伸びとトルクレスポンスがもう少しあるといい。
●水野和敏 取材メモ
・全長が5mを超えるボディは大きいのだが、キャビンを小さく見せるフロントウィンドウのデザイン処理などにより、大きさを感じさせない。
・バネをハードにセットしてショックアブソーバーの減衰を緩くすることで、姿勢変化を抑えながら突き上げを感じさせない上質な乗り心地を作り出している。
・2Lディーゼルターボは、BMWらしいパンチの効いたトルク感が乏しいのはマイナス評価。
●BMW 523d xDrive M Sport 主要諸元
・全長:5060mm
・全幅:1900mm
・全高:1515mm
・ホイールベース:2995mm
・最低地上高:154mm
・最小回転半径:5.8m
・車両重量:1870kg
・エンジン:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
・総排気量:1995cc
・最高出力:197ps/4000rpm
・最大トルク:40.8kgm/1500-2750rpm
・モーター:7ps、2.5kgm
・トランスミッション:8速AT
・WLTCモード燃費:16.6km/L
・Fサスペンション:ダブルウィッシュボーン
・Rサスペンション:マルチリンク
・タイヤサイズ:245/45R19
・車両価格:918万円
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■Mercedes-BENZ E220d ADVANTGARDE:92点
新型Eクラスは最近のベンツらしく曲面を多用したエクステリア造形としながらも、徹底的な空力対応を盛り込んでいるのが特徴的。特に床下の完全フラット化や、それに伴ったサイドへの風の抜けを防止したスカート形状など、空力と上質さをメインに訴求した造形。
2Lディーゼルターボにマイルドハイブリッドモーターを組み合わせたパワートレーンはアクセルレスポンスに優れ、また3000rpm以上での伸びやトルクレスポンスにも優れ、パワフルだ。
微小な段差越えの時に少しコツコツという入力の乗り心地と、“ゴー”という低周波のタイヤパターンノイズを感じた。
●水野和敏 取材メモ
・全長を5m以下に抑えるとともに、曲面を活かした造形とすることで車体の大きさを感じさせない。
・空力的には完全フラットな床下や、床下の風が側方に漏れ出すのを抑えるサイドスカート形状など、各部を高いレベルでまとめている。
・やや足の硬さを感じさせるとともに、サスアームの共振に伴うロードノイズを感じる。これらにより、やや上質感がスポイルされている。
●メルセデスベンツ E220d AVANTGARDE AMGラインパッケージ 主要諸元
・全長:4960mm
・全幅:1880mm
・全高:1470mm
・ホイールベース:2960mm
・最低地上高:135mm
・最小回転半径:5.4m
・車両重量:1920kg
・エンジン:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
・総排気量:1992cc
・最高出力:197ps/3600rpm
・最大トルク:440Nm(44.9kgm)/1800-2800rpm
・モーター:23.1ps/20.9kgm
・トランスミッション:9速AT
・WLTCモード燃費:18.5km/L
・Fサスペンション:4リンク式
・Rサスペンション:マルチリンク
・タイヤサイズ:F:245/45R19 R:275/40R19
・車両価格:921万円
* * *
今回は真っ向ライバルの2台を評価しましたが、従来のベンツとBMWの評価と少し変わりました。価格を考えると新型5シリーズはバリュー感が高く、進化も大きく感じられました。
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次の記事ドライバーを守る[合わせガラス]って何よ!? なくてはならない[衝撃技術]って?
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