特別スーパーな性能でもないし、街中を走っていたら周囲に溶け込んでしまうようなスタイリングだし……でも一台の小型サルーンが忘れられずにずっと長く愛用しているクルマ好きがいる。たしかに、ちょっと速い小型サルーンというのは、もっと見直されていい魅力の持ち主。というわけで、プジョー205GTIを採り上げよう。

文、写真/いのうえ・こーいち

■オースティン・ローバーで販売

プジョー 205GTI。かつて日本ではオースティン・ローバー ジャパン(ARJ)から販売されていた

 いまや懐かしのディーラーになってしまったが、かつて、英国ミニやランドローバーなどを扱かって英国車好きに親しまれた、オースティン・ローバー ジャパン(ARJ)は、ある種クルマ好き御用達のようなところがあった。

 フランス車であるプジョー205シリーズは、そのARJから輸入販売されたのが、まず不思議で興味深いところだった。

 本当はシトロエンとプジョーを扱うディーラーがあったのだが、当時は、フランス車の知名度が低く、それこそ一般のひとはなかなか手にしないような存在だった。ディーラーのおかげなのか、クルマそのものがよかったのか、それがこのプジョー205GTIで一気に状況が変化した印象がある。

 そもそもプジョーというブランドは、それこそ世界最古というような歴史を持ち、1880年代から自動車生産を行なってきた。

 1970年代にはシトロエン、シムカなどを傘下に収め「PSAグループ」を形成、ルノーと並びフランスの代表のような存在であった。つい先頃2022年にフィアット、クライスラーと合併して「ステランティス」になったのはご存知の通りだ。

 そんな歴史あるブランドなのに、日本での知名度は今ひとつでありつづけたのだった。

■そんななかのプジョー205

最近の標準からするとひと回り以上コンパクトなボディサイズ

 プジョーは、「十の位」に0を挟んだ車名を伝統的に使ってきた。そう、ポルシェがポルシェ911を901の名で発表した時、プジョーからのクレームですぐに911に変更した、という逸話がある。

 で、小型のプジョー104と少し大きなプジョー305との間に、プジョー205シリーズを送り出すのだが、その前モデルにあたる204からはしばらく空白の時間を経て、のデビュウであった。

 というのも、プジョー204はひと回り大きく、それがプジョー305に上級移行し、その空いた小型クラスでの再デビュウというような印象であった。

 ホイールベース2420mm、全長3.7m余というサイズは、最近の標準からするとひと回り以上コンパクトだ。それに搭載されるエンジンは、水冷直列4気筒SOHC1580cc。

 205シリーズには1.0L級から1.8Lディーゼルまでが用意されるが、この105PSエンジンが最強で不足ないパワーだった。というより、とてもスポーティで小気味よいフィーリングが評判だった。

 1988年にはエンジンを1.9Lに拡大して、より乗りやすくなるが1.6L版を好むクルマ好きが多い。

■モデルチェンジと「グループ4」

エンジンは水冷直列4気筒SOHC1580cc。欧州仕様は115PS、日本仕様は105PSだった

 というのも、Lジェトロニック・インジェクションを装備し、10.2という高圧縮比。佳き時代の快活なエンジンのセオリイ通りのスペックだったのだ。

 欧州仕様は115PS、日本仕様はその10PSダウンであったが、不足はなかった。エンジンはコンパクトで、5段のギアボックスとは直列に結ばれ、フロントに横置き搭載されていた。

 ボディ・スタイリングはピニンファリーナの協力で形づくられた。リア・クウォータ部分の処理など、シンプルでありながら個性の盛り込み方は、イタリアの薫りが感じられる。このスタイリングも人気のポイントであった。

 もうひとつ、人気を上昇させたものにプジョー205ターボ16があった。1984年にデビュウした「WRC(世界ラリー選手権)」に参戦すべく開発された「グループB」カーだ。

 DOHC16ヴァルヴ1775cc+ターボ・チャージャで200PSを発揮するエンジンを、リアシートの代わりにミドシップ搭載したもの。プジョー205のイメージを残しつつ、大迫力の本格的マシーンである。

 実戦でも、ランチア・ラリー037、アウディ・クワトロなどを向こうに回し、好成績を収め喝采を浴びた。

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