昨今の新車販売は昔とは大きく異なっている。メーカーが新車を発表してから発売日まで超人気車の場合は受注が殺到したため、発売後早々に受注停止となり、1年以上経っても受注停止が続いている場合もある。超人気車の場合は、実車を見ないで購入するケースや、抽選販売、ディーラーが儲かる顧客の優先販売など、販売方式も地域、販社によってさまざま。なぜこんなことが起きているのだろうか、モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
文:渡辺陽一郎、ベストカーWeb編集部/写真:ベストカーWeb編集部
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■クルマによって販売方式が変わる
2000年頃までの日本車では、車両の内容を公表する「発表」と、生産や納車を伴う「発売」を同時に行うことが多かった。注目される新型車が発表されて新聞やTVで報道されると、宣伝も同時に始まり、販売店には展示車もあって受注を開始する。
カタログを求めるユーザーが販売店の前で行列になり、警察官が交通整理をする場面もあった。職場や学校でも新型車が話題になり、受注台数も急増した。
当時から東京モーターショー(ジャパンモビリティショーの前身)にプロトタイプが出品され、その後に市販する車種もあったが、その大半は新規投入車種だった。フルモデルチェンジする新型車を東京モーターショーに展示したら、従来型が売れなくなるからだ。つまり当時は、新型にフルモデルチェンジされるまで、従来型をきっちりと売り切った。
ところが今は状況が違う。海外でも販売する車種は、まずワールドプレミアと称して、左ハンドルの海外仕様を最初に公表することが多い。次に海外で発売され、その後で日本仕様の発売に移る。今はインターネットを使って海外の情報も手に入るため、内外装のデザインなどはワールドプレミアの時点で把握できる。
その後に実施される国内仕様の発表/発売も、2000年頃までと違って複数のプロセスがある。まずティザーキャンペーンが多い。メーカーのホームページを見ると、フロントマスクなど外観の一部だけを掲載するなど、車両の情報を少しだけ披露する。そして「発売は今秋」という具合に、大まかな発売時期も伝えておく。
このティザーキャンペーンの段階で、販売店は予約受注を開始することが多い。車両の概要に加えて、パワーユニット、グレード構成、価格まで明らかにして実質的な販売活動を行う。メーカーのホームページに掲載されるのは、ティザーキャンペーンの曖昧な情報だが、販売店に出かけると具体的な内容が分かって契約もできる。
この後、正式に「発表」されて価格なども明らかになるが、販売店に出かけても実車を見られないことが多い。「発表」の後に「発売」され、メーカーの生産も開始されると、ようやく展示車と試乗車が配車されて納車も始まる。このように、昔に比べると、外観などが公開されてから実際に納車されるまでの期間が長い。
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■最新車の発表から発売への動向
2024年9月中旬時点では、トヨタではクラウンエステートが発売されていない。外観が披露されたのは2022年7月15日だから、既に2年以上を経過している。
ホンダは2024年8月22日からN-BOXジョイをティザーキャンペーンで先行公開した。販売店では「正式発売は9月26日だが、8月29日から装備や価格を明らかにして予約受注を行っている」という。ティザーキャンペーンの開始から発売までは約1か月だ。
マツダではCX-80がある。直列6気筒エンジンの搭載を始めとするCX-80の存在が最初に明かされたのは2021年であった。この後、CX-60などの発売を経て、2024年4月にCX-80の外観などが欧州で初公開された。
日本では2024年8月22日にCX-80の国内仕様のデザインなどが公開され、販売店は以下のように説明している。「9月5日から価格を明らかにして予約受注を開始した。10月1日には販売店に展示車が届いてお客様に見ていただくことが可能になり、10月10日に正式発表となる。発表後は展示車を登録して試乗も可能になる」。
スバルではフォレスターがある。2023年11月16日に北米仕様が公開され、同年4月から発売が開始されたが、日本仕様の概要は不明だ。最新情報では2024年末に発表され、2025年春頃に発売される予定。
スズキは2023年1月に、インドでフロンクスを公開した。この後にインドで生産が開始され、2024年7月1日から日本国内でティザーキャンペーンを始めた。販売店では「8月1日から価格を明らかにして予約受注を開始しており、9月中には正式発売される」と述べている。
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■なぜ発表から発売まで長い期間が経ってしまうのか?
以上のような車両の概要を早期に公表しながら発売が遅れる理由は何か、複数の理由が挙げられる。
まず「世界同時発売は困難で、販売台数の多い地域を優先して発売するため、日本は遅れる」というものだ。メーカーの生産開始に伴う負担を軽減するため、販売台数の多い地域から順番に供給していく。
「従来型を購入されているお客様からの乗り替えを促すため、販売店では先行的に予約受注を開始して、お客様にメリットを与える」という考え方もある。つまりメーカーが発信していない新型車の詳細な情報を馴染みの顧客に伝えることで、特別感を演出して新型車への乗り替えを誘致するわけだ。
「新型コロナウイルスの影響もあって新型車の発売が先送りになったが、なるべく早く存在を明らかにして、お客様の購買意欲を高めたい」という意見もある。特にライバル車の発売が控えている時は、ティザーキャンペーンの開始時期を前倒しして、ライバル車の購入をストップさせたい。以上のような理由で、最近は車両のデザインなどが明らかになってから実際に購入できるまで、長い時間を要する。
ただしこのような売り方は、ユーザーの不利益に結び付くのではないだろうか。まずは海外と国内で発売時期に差が生じることだ。確かに日本の販売規模が北米の10%以下に留まる車種もあるから、日本が遅れるのは理解できる。
しかし時間差にも限度がある。先代アコードのように、北米で発表された2年半後に日本で発売されると古さが目立つ。今は先進安全装備や衝突安全性の進化が著しい。
海外では新型アコード、日本では従来型を販売していた期間は、日本のメーカーが日本のユーザーに対して、海外よりも安全性の劣るアコードを売っていたことになる。アコードは北米などでは5~6年ごとにフルモデルチェンジするから、日本の発売が2年半も遅れると、生産期間の半分に相当する。遅れても1年以内に収めるべきだ。
予約受注の期間が長い人気車の場合は、正式発表された後で契約すると、納期が遅延することがある。試乗してから契約すると、納期がますます延びてしまう。ユーザーは、実車を見ずに契約して納期を縮めるか、納得して購入する代わりに納期の遅延を我慢するか、という二者択一を迫られる。
メーカーにとっては事前に受注台数がわかると生産の予定が立てられる一方、不利益も生じる。冒頭で述べたような新車の発売による話題性の盛り上がりに欠けることだ。今は昔に比べると、新車への関心が薄れて、発売されても話題になりにくい。それでも今のスケジュールでは、いつ発売するのか、売っているか否かも分からないことがある。
クルマは高額商品だから慎重に選んで欲しいが、実際にはノリとか勢いで購入されることも多い。インターネットなどで外観を見て「これが欲しい!」と思ったらスグにでも契約したい。それが「今年中には発売されると思いますが、詳細はメーカーが販売会社に公表していません」では購買意欲も下がってしまう。
今でも新型車の登場は、ワクワク、ドキドキさせて欲しい。販売不振を突破するためにも不可欠な条件だろう。今はメーカーや自動車業界が、クルマをつまらなくしているように思うのは私だけだろうか。
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■アルファード&ヴェルファイア、ランクル250の販売方法について
文:ベストカーWeb編集部
読者のみなさんはメーカー、ディーラーの新車販売の顧客対応について、どんな思いをお持ちなのか、ぜひコメント欄に書いていただきたい。
昔は欲しい新車があるとディーラーに行ってサインすると、早ければ2~3週間で納車されたものだった。コロナ禍による生産遅れ、半導体供給不足の影響による長納期は致し方ないが……。
前述の通り、正式発表前、メーカーがグレードや価格を発表していない状況(発表3~4週間前)で、販社(ディーラー)が簡易パンフレットを配布し、ティザー広告が始まり、発表日前に、受注予約を開始。グレードや価格を提示し、見積書を作成。その後正式契約し、発売日以降に納車というのがだいたいの流れだった。
トヨタの人気車の場合、発売日当日に受注停止という車種もあった(ショールームに行っても、もう買えませんと門前払いされる)。新型アルファード&ヴェルファイア、ランクル250など受注が殺到しそうな車種の場合には、ディーラーには発表発売日以降(プレス発表日時以降)に見積書作成、正式発注するようメーカーから通達を受けたと、ディーラーの営業マンから聞いている。
受注予約をなぜ行わないのか? その理由としては混乱を避けるためと、需給ギャップが大きくなることを見越し、早期に対応を決めているようだ。
メーカーは基本的に販売方式を販社に一任している。しかし実際には3カ月以上前に先行予約しているところや古くからのつきあいのある既納ユーザーの先行受注、さらに抽選販売を行っているところもあり統一されていない。これはトヨタの人気車だけでなく、日産フェアレディZやアリアB9、ホンダシビックタイプRなどもそうだった。
また抽選販売といっても名ばかりで、長期ローン利用(74回)やディーラーオプションの任意での選択などディーラーにとって利益が大きくなるユーザーを優先し、当選させるディーラーもあった。
いっぽう、抽選販売を行っていない販社でも、残クレや長期ローン(74回)、下取り車あり、ボディコーティング、メンテナンスパックなど選択した項目が多いほど、割り当て台数が多くなり、選んだ項目が多い顧客を優先販売し、納期が早くなる販売方式をとる販社もあった(もちろん地域によって異なり、こうした“縛り”がない販社もある)。
こうした人気車の場合、ほとんどのディーラーでは1年以内の転売、海外輸出をしないように誓約書を購入者に書かせている。転売ヤーをなんとしても防ぎたいのは理解できる。本当に欲しいと思うユーザーに渡ってほしいのは切実な願いだ。
しかし、前述した一部のディーラーが行っている、残クレ、長期ローン、下取り車等々を選択したディーラーが儲かる顧客を優先した販売方式はいかがなものか。こうした“縛り”がなくなる日は来るのだろうか? また生産キャパシティの問題があるとはいえ、長納期の早期改善を望む。
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