現在、多くのクルマが採用するFF。当たり前になりすぎて、進化が感じられない。そうなると、やはりFFスポーツを究め続けるホンダに、ひと肌脱いでもらわなければならないだろう。まずは、あの頃の熱い気持ちを甦らせるために、FF車を大きく変えたクイントの存在を振り返っておきたい。
文:佐々木 亘/画像:ホンダ、ベストカーweb編集部
■インテグラの祖先!その名は「クイント」
1980年に登場したクイント。2代目からはクイントインテグラと名称を改めたことで、1代限りでその幕を下ろしたFFの名車だ。その後はインテグラとして歴史を刻み、現在も北米で活躍を続けている。
さて、行動派のFF5ドア・スポーツハッチバックとして登場したクイント。デビュー時にホンダは、「クルマが行動のサイズに合ってきた」とコピーを打った。設計には、ありきたりを拒否した新しい視点が入り、基本性能と機能性・合理性を徹底的に追求している。
販売をまかされたのは、ベルノ店。アコードとシビックの間に入る、オールマイティに使えるスポーティハッチが誕生した。
■FFで重要なのはエンジンと足だよね
クイントに搭載されたのは、CVCC-Ⅱと呼ばれる1.6LのSOHCエンジンだ。最高出力90PS・最大トルク13.5kgmを生み出す高性能エンジンであることはもちろんだが、FF専用エンジンとして、徹底的な軽量化とコンパクトな設計がなされている。
駆動と操舵を任されるフロントタイヤの上には、できるだけ負担の少ない軽いエンジンを載せるのが、FFスポーツを作り出すセオリーだ。すると、FFでも気持ちよくワインディングロードを走破し、市街地をシャープに乗りこなすことができる。
また、当時のクイントに採用されていた足にも注目したい。ホンダがいち早く採用し、その完成度を高めたストラット方式四輪独立懸架が、クイントならではの運動性能を生み出していた。
この足回りで特徴的なのは、とにかく直進性に優れていたということ。ホンダ伝統のネガティブ・オフセット・ジオメトリーが、制動時の走行安定性も高めている。良いFF車は、ブレーキング時にフラフラしない。
軽くて小さなエンジンと真っ直ぐ走る足回り、これが良いFF車の条件だ。ここを究めると、自然と乗り心地も良くなり、FRセダンにも引けを取らないクルマが出来上がる。
このクイントを生み出したホンダだからこそ、21世紀の技術を使えば、見違えるようなFF車を作り出せるはずなのだが。
■パッケージングは最高なのよ!だからこそFFの走りにこだわってほしい
N-BOXしかりフィットしかり、ホンダのコンパクトカーのパッケージングには、目を見張る点が多くある。クイントではラップラウンドインパネという、インパネ全体をラウンドさせ、助手席側をクリフカットして広さとデザイン性を融合した内装が特徴的だった。こうした「FF車の室内」には、約40年前から引き継がれたホンダらしさが残っている。
ただし、走りはというとシビックに任せっぱなしという印象。ほとんどFF車でまとめられたホンダラインナップからは、あれだけ強かったFFへのこだわりが伝わってこない。
徹底的な空間美とFFモデルの乗り味の良さが、ホンダスピリットなのではないだろうか。N-BOXにもフィットにも、もっと言えばオデッセイやステップワゴン、ヴェゼルなどにも、「ホンダのFF」の崇高さを感じたいのだ。
新型フリードには、少しホンダのFFらしさが戻ってきた。カテゴリーに関わらず、「やっぱりFFはホンダだね」と、クルマ好きが口をそろえて言える日が、近々戻ってくることを願っている。
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