1981年に公開された、高倉健さん主演の映画「駅 STATION」。この作品の主な舞台になったのが、日本海に面する道北・留萌地方の港町、増毛(ましけ)である。

文・写真:中山修一
(JR留萌本線とその後の写真−全14枚−付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)

■ホンモノの終着駅がある鉄路

鉄道旅では魅力の大きかったJR留萌本線の留萌〜増毛間(2012年撮影)

 映画の題名が「駅 STATION」の通り、増毛には国鉄留萌本線の「増毛駅」があり、これ以上レールが続かない、深みのある旅情を感じさせる本当の終着点だった同駅とその周辺が、劇中でも印象的に描かれている。

 のちにJRへと引き継がれた留萌本線は、道央・空知地方の深川と、留萌を経由して増毛を結ぶ、延長66.8kmの路線だ。

 普段は1両編成のディーゼルカーがのんびり走る、お手本のようなローカル線で、とりわけ留萌〜増毛間はレールが海沿いに出るため、留萌本線の中でも景色のよい区間だった。

 とはいえ景色の良さと利用者の数は比例しないようで、2010年頃を振り返ると、席が全部埋まるくらいまで乗っていた車内も、留萌に着くと殆どの人が降りていき、最終的には車両まるごと貸切、「そして誰もいなくなった」はローカル線の日常でもある。

 増毛に到着して、運転士さんに当時まだ取り扱いのあった周遊きっぷを見せると、「兄ちゃんこれの折り返し乗ってくでしょ?」と聞かれ、増毛で泊まっていく旨を伝えたら、「マニアさんですぐ帰らないの珍しいねぇ!!」と言われたのも今や懐かしい。

廃止うんぬんの話が何もなかった時代の増毛駅(2010年撮影)

 その後、JR北海道が大規模な路線廃止に着手し始めると、留萌本線が案の定取り沙汰され、最も利用率が低いと言われた留萌〜増毛間16.7kmが先行して、2016年12月に廃止されてしまった。

 2023年4月には、石狩沼田〜留萌間35.7kmも役目を終え、そこそこ長い距離のあった留萌本線も、2024年現在は深川〜石狩沼田間14.4kmを残すだけになっている。「本線」と名のつくJRの路線では日本一短いのだとか。

■競合交通が代替バスに?

 鉄道が廃止になると、代わりの交通機関に路線バスが選ばれるのは、留萌本線の留萌〜増毛間も他の廃止路線と同様。

 ただし、「鉄道代替バス」と銘打った路線バスが新設されたのではなく、JR線が現役だった時代も並行して走っていたバス路線が、ほぼそのまま代替バスを兼任するようになった形だ。

 羽幌町に本社があるバス事業者の、沿岸バスが運行している23・24系統「留萌別苅線」が、事実上の留萌本線・留萌〜増毛間の代替バスに相当する。

大型路線車で運行の沿岸バス留萌別苅線

 このバスは、留萌市立病院〜大別苅(おおべつかり)を結ぶ路線で、全区間の距離は約28km。留萌本線代替バスとしての部分は途中の区間およそ19km分になる。

 留萌駅前や増毛駅のすぐ近くを通る経路が組まれており、それぞれの最寄バス停名も「留萌駅前」と「増毛駅」であったが、増毛駅のほうはJR廃止後の2017年4月1日に「旧増毛駅」に改称している。

 上下1日9本ずつで、大体1〜2時間に1本のペースでバスが出ており、本数では上下1日6本ずつくらいだった鉄道よりも若干多い。

 バスの車種を見ると、2018年当時に利用した際は特急バス用の1ドア車が使われていたのに対して、2024年5月現在では、ごく一般的な大型路線車の三菱ふそうエアロスター(2005年式PJ-MP35JK・元東急バス)が使われていた。

■行って戻るしかない場所

 観光で増毛に行こうとするなら、大抵は留萌が拠点になるハズ。その場合、増毛から先へ進んで他の都市へ抜ける交通手段がほとんどないため「行って戻る」が基本だ。

 旧増毛駅には、沿岸バスの札幌行き特急「ましけ号」も通るが、朝7時台に1本しかなく、23・24系統の始発は「ましけ号」よりも後のため、どうしても来た道を戻りたくなければ、増毛に1泊する必要が出てくる。

行先には「旧増毛駅」の表示が。併記されている「雄冬」まで行く路線は2024年9月に廃止

 さて、路線バスを使って増毛に行ってみるとして、問題は滞在時間。4分で折り返しのバスが来て、その後3時間バスが来ない……とかではさすがに使い辛い。

 その点はある程度考慮されているようで、例えば10:45に留萌駅を出発する便に乗ると、最低でも1時間15分ほどの現地滞在時間が作れる。

 バスで行くと留萌駅前→旧増毛駅まで所要時間約34分、運賃は430円だ。2ドアの路線車でも中扉は締め切りで、前乗り・前降り方式が採られている。

 鉄道と同じく海沿いの道をよく通る路線であるため、車窓から見える景色はなかなかキレイだ。まだ留萌本線のレールが所々に残っていて、それらを見つけるのも楽しみの一つ。

■昔より流行ってます

 鉄道が廃止になると人がいなくなる、なんて話をよく聞く。増毛駅跡も同様に往年の姿は見る影もなく……と思いきや、現役当時の姿を知っている人が今行くと、ちょっと意外に感じるかもしれない。

2013年(上)と2024年現在の増毛駅駅舎。写真右寄りが待合室で左寄りはトイレ

 廃止日直前を除く晩年の増毛駅といえば、年季の入った魔改造木造駅舎に錆びた駅名標、草ボーボーの側線跡などなど、なんとも野晒し感のすごい場所で、訪れる人もまばらだった。

 増毛駅は鉄道廃止後に大規模な観光地化リニューアル工事が施され、復元的な増築とレトロ調に化粧直しされた駅舎をはじめホームもきれいに整備。側線跡は駐車場に変わった。

 しかも、週末となれば結構なお客さんで賑わい、駐車場もコンスタントに車が入れ替わる。鉄道がなくなってからのほうが、むしろ呼び物として人が集まるようになった、まるでゴッホの絵のような転身を遂げた廃線跡も珍しい気がする。

バスは旧増毛駅よりもさらに先まで向かう

 駅跡だけでなく、周辺には映画「駅 STATION」のセットを再現した観光案内所や最北の酒蔵もあり、街の中を散策して楽しめる。代替バスも割と使いやすいので、公共交通機関を使った旅の訪問先には今もうってつけの場所だ。

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