現在人気のある乗用車カテゴリーにSUVがある。しかし、世の中には「なんちゃってSUV」と呼ばれるクルマも存在している。では、なんちゃってSUVとはなんなのか? そしてその利点はどこにある?

文/長谷川 敦、写真/トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、FavCars.com

■まずはSUVの定義を考えよう

日本製SUVの代表格といえるのがトヨタ ランドクルーザー。本来SUVとは、道なき道を走れる能力を備えたタフなクルマのカテゴリーを指す用語といえる

 SUVとは「Sport Utility Vehicle」の略語で、日本語にすると「スポーツ用多目的自動車」ということになる。

 しかしこの日本語訳ではもうひとつカテゴリーの実態をつかみにくく、どのようなジャンルのクルマかわからない。

 実は、SUVにそこまで明確な定義があるわけでもなく、悪路走行を可能にするため最低地上高が高く、タフな車体と足回りを備えたクルマがSUVと呼ばれることが多い。

 ちなみに以前の日本では、SUVよりもRV(Recreational Vehicle、つまりレジャー向けの乗用車)と呼ばれるケースのほうが多かったが、RVがカバーする範囲はSUVだけでなくステーションワゴンや本格的クロスカントリーモデル、キャンピングカーなども含んでいたため、より細分化するためにSUVが用いられるようになった。

 なお、クロスカントリーカーも広義ではSUVに含まれる。

 本来は未舗装路の走行も想定した設計のSUVだが、車高の高さやしっかりとしたボディ&サスペンション、耐久性の高いエンジンなどの美点に着目され、日常使いのクルマとして使われるケースもあった。

 とはいえ本格的なSUVは、街乗り用にはややオーバースペックな部分もあった。

 そこで注目が集まっているのが、今回の主役、なんちゃってSUVなのだ。

■“なんちゃってSUV”にも定義はあるのか?

 ではここから今回の本題である「なんちゃってSUV」について考えていきたい。

 もちろん正式なクルマ用語としてなんちゃってSUVがあるわけではなく、一見SUVに思えるけど、実はそうでないクルマがなんちゃってSUVにカテゴライズされる。

 つまり、SUV的な特徴を持つが、実際には一般的な乗用車に近いクルマが世間ではなんちゃってSUVと呼ばれている。

 なんちゃってSUVでは、通常のロードカーのボディ形状をSUV風にデザインし、それいでいて最低地上高はロードカーレベルに抑えられている。

 そもそも悪路を走行することがないのであれば、最低地上高を高くする必要はなく、サスペンションのチューニングもそこまで硬くしなくてもいい。

 むしろ、頑丈で重いボディと硬めのサスペンションは一般道での乗り心地を低下させる可能性もある。

 とはいえ高めの視界による運転のしやすさと、広い室内空間&荷物スペースというSUVの特徴は一般道でも便利なことが多く、こうしたSUVの利点と、乗用車の扱いやすさを“いいトコどり”したのがなんちゃってSUVだといえる。

 なんちゃってSUVと本格SUVの間に明確な線引きはないが、大まかに考えて、最低地上高が170~180mm以下のクルマが「なんちゃってSUV」、それ以上の悪路に適応した地上高を持つクルマが「本格SUV」と区別できる。

 最低地上高だけでなく、ボディ剛性の高さや足回りの構成もなんちゃってSUVと本格SUVを区別する指標になるが、これは外見からではわかりにくい。

 近年人気を高めているクルマのカテゴリーにクロスオーバーSUVがあるが、このクロスオーバーSUVも広い意味ではなんちゃってSUVといえなくもない。

 近い将来には、クロスオーバーSUVがさらに勢力を拡大して、なんちゃってSUVという呼び方そのものが使われなくなる可能性もある。

■なんちゃってだけど魅力はいっぱい!

写真のようにちょっとしたキャンプなら、本格SUVではなくなんちゃってSUVであっても十分に活躍してくれる

 本格SUVを愛する人がなんちゃってSUVの存在に眉をひそめるケースもあるが、一般道専用と割り切って考えると、なんちゃってSUVにも利点は多数ある。

 まずは最低地上高が普通のクルマとほぼ同じかやや高い程度なので、乗り降りや荷物の積み下ろしがしやすいこと。

 これが地上高の高い本格SUVでは少々面倒になる。

 そして車体が本格SUVよりも軽くて燃費に優れている、つまり経済的だということ。

 悪路走行を想定しないのであれば、ボディやサスペンションの剛性をそこまで高くする必要はなく、結果としてクルマは軽くなる。

 軽いクルマは燃費が良く、同じブレーキならば制動に必要な時間、あるいは力は少なくてすむ。

 先にも書いたが、SUVタイプのボディは室内空間に余裕があり、搭乗者の頭上スペースも十分に確保できることに加え、荷物をたくさん詰めるのもありがたい。

 さらにSUVの見た目は通好みというイメージもある。

 このように、なんちゃってSUVには人気を集めるだけの理由がある。

 とはいえ、山岳地帯などの悪路を走行する予定がある人には、十分な最低地上高とボディ剛性が確保され、サスもしっかりした4WDの本格SUVをお薦めする。

■このSUVはなんちゃってか? それとも?

 最後はなんちゃってSUVともいわれるクルマをピックアップして紹介する。

 ただし、なんちゃってが悪いということではなく、SUVと普通車の利点を併せ持ったクルマだと考えてほしい。

●トヨタ ヤリス クロス

 ヤリスといえば、かつて日本市場ではヴィッツの名称で販売され、コンパクトカーの代表とも呼べる人気車。

 そのヤリスの名を持つのがヤリスクロスだが、ボディサイズはヤリスより拡大され、デザインもSUV然としたものに改められている。

 最低地上高は4WDモデルで170mmと、SUVというにしてはやはり低めだ。

●ホンダ ヴェゼル

 現在は2代目が販売されているホンダのヴェゼルは、コンパクトカーのフィットをベースに開発されたモデルであり、この理由もあってなんちゃってSUVといわれることがある。

 最低地上高は170~195mmとそこまで低くないが、悪路走行をするには少々足りず、日常使い用としての色合いが強い。

 エンジンはガソリンとハイブリッドの2タイプをラインナップし、駆動方式もFFと4WDが用意されている。

●マツダ CX-3

 マツダのクロスオーバーSUV・CX-3も、なんちゃってSUVと呼ばれるケースがある。

 その理由は、SUVにしては車高、最低地上高ともに低めなこと。

 最低地上高は160mmで、やはりこれは悪路走行を想定しているとはいえない。

 エンジンはガソリンとディーゼルの2仕様があり、4WDモデルが用意されている点はSUVらしいとも考えられる。

●日産 ノート AUTECH クロスオーバー

 2021年に登場した日産 ノートの派生モデルがAUTECH クロスオーバー。

 クロスオーバーの名称どおり、ボディはノーマルのノートをベースにSUV化されていて、全高も高くなっている。

 気になる最低地上高は150mmと、本格SUVと呼ぶには低い。

 しかし、通常のノートよりは高く、4WDの強みによって雪道走行などでは高い性能を発揮してくれる。

 当初はSUV風のロードカーを揶揄する言葉だった「なんちゃってSUV」だが、現在ではクロスオーバーSUVの人気が高く、なんちゃってSUVはクルマ市場を引っぱる存在でもある。

 だからこそ、これから独自の発展を遂げる可能性を秘めたカテゴリーともいえる。

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