日伊合作車のシャレード・デ・トマソターボをご存じだろうか? パンテーラというスーパーカーを生み出したデ・トマソ社とダイハツのコラボレーションによって生まれたボーイズレーサーである。はたして、発売当時、どんなクルマだっただろうか? 

※本企画はベストカー1984年4月号のシャレード・デ・トマソターボ試乗記事(執筆は徳大寺有恒氏)から抜粋したものです

文:徳大寺有恒、ベストカーWeb編集部/写真:ベストカー、ダイハツ

■なぜイタリアのスーパーカーメーカーのデ・トマソ社がなぜ?

1971年、デ・トマソ社とフォード社とのコラボレーションによって生まれたパンテーラ。写真は350ps/50.0kgmを発生するデ・トマソ・パンテーラGTS

 いままで、多くのクルマが○×とか凸凹感覚とか、いかにも一般大衆に受けようと、ヨーロッパ風デザインだとか、本物のアメリカンといったようにクルマをコーディネートし、いわゆるひとつの上べだけの“カッコ”だけを売り物にしていた感が恐ろしく強いが、今回シャレードターボのパリエーションに追加登場した“シャレード・デ・トマソターボ”はすごい。本物である。

 クルマはというと、シャレードターボのレギュラールーフをベースに、イタリアのエキサイティングカーを数多く手がけたヌオバ・イノセンテイ社の代表アレッサンドロ・デトマソ氏が直接参画したものであり、エアロパーツ、イタリアンブランドパーツを組み込み、まるで、日本生まれのイタリア育ちというクルマに仕上がっている。

1984年1月に発売されたシャレード・デ・トマソターボ。搭載された993㏄直3ターボエンジンは80ps/12.0kgmを発生。車重は690㎏

 では、このデ・トマソターボがノーマルのシャレードターボとどのくらいの違いがあるのかを紹介してみよう。まず、手はじめは外観だが、これがすごいのだ。一見すると“ドキッ”とするといっても過言じゃない。

 ボディのエアロチューンはCL値を向上させ、高速走行を一段とアップさせるスポイラーと一体の前後大型バンパー、サイドに張り出したストーンガード、そしてポディサイドにはサイドスカートをはじめ、超大型のサイドプロテクションモールが他のエアロパーツと一体、イタリアンエキサイティングミニというムードを漂わせている。

ベストカー1984年4月号より

 また、リアゲートにしても、パックドアスポイラーを装着することにより、リアピューもまんまイタリアンムード。気になる足はというと、ゴールドのカラーリングが施されたシャレード・デ・トマソターボ用のカンパニョーロ製の5J×14サイズのマグネシウム合金製ホイールに、なんとビレリP8(165/65R14)のラジアルタイヤが装着されているのだ。

 これだけでもわかるように、外観はかなりのシロモノ。ノーマルのシャレードターボに比べると、かなりしたたかと思わせてくれるのだ。

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■MOMO製本革製ステアリングにバケットシートを装着したインテリア

MOMO製本革ステアリングやバケットシートを装着し、エクステリアと同じくレッド/ブラックのツートンカラーとしたイタリアンテイスト溢れる内装

 内装もかなりのイタリアンムードに溢れている。ステアリングホイールはMOMO製の本革製3本スポーク、ダッシュボードにしても、日本人の感覚では考えもつかない赤を使ったシャレたカラーコーディネイトがなされている。

 シートにしてもデ・トマソ仕様の少し硬めのバケットシートが採用され、並みのシャレードとはまるで違うクルマという印象を与えてくれる。

 リアシートにしても、サイドサポートを張り出させ、そのうえ、ハイバックとなっており、リアシートに座る人間に対しての気配りが充分に感じられるのだ。

赤/黒の2トーンカラーが眩しいシート

 このシャレード・デ・トマソターボの価格は123万円だが、もしノーマルのシャレードターボ(95万4000円)をデ・トマソターボ仕様にするとしたら、27万6000円の差額でここまでできるだろうか。おそらくパーツ単体を購入して作ったとしても、ここまでの仕上がりは望めないだろう。さすが、デ・トマソである。

1985年2月のマイナーチェンジでフロントマスクおよびリア回りのデザインを一新、フラッシュサーフェスフォルムを採用

■シャレード・デ・トマソターボが現代に復活する?

アウトビアンキA112アバルト(シリーズ7)。1985年式はフォグランプがバンパー埋め込まれる

 シャレード・デ・トマソターボが発売されたのは今から40年前だが、本企画担当ははっきり覚えている。ダイハツ製エンジンを積んだイノチェンティ・ミニにも憧れていたが、東京・世田谷区尾山台にあったJAXカーセールスに新車のアウトビアンキA112アバルトを見に行ったことがあった。当時新車価格が189万円と高額なため断念し、1年後に1984年式の中古を135万円で買った担当にとって、シャレード・デ・トマソターボの123万円という価格は衝撃だった。

1983年12月に発売されたイノチェンティミニ・デ・トマソ

 タコ足付き直4OHV1049㏄で70ps/8.7kgm、車重710㎏のA112アバルトに対し、シャレード・デ・トマソターボは993㏄直3ターボで80ps/12.0kgm、車重は690㎏と近しいライバル車であったからである。

 A112アバルトで池袋のダイハツディーラーに乗り付け、シャレード・デ・トマソターボに試乗させたもらったが、ヴォンヴォンという排気音と体感的な速さ(実際は遅い)はA112アバルトのほうが上。サソリの毒が体内に回っていた担当にとってはシャレード・デ・トマソターボは少々物足りなかった。

 とはいえ、シャレード・デ・トマソターボは高速域の伸びがよく、車格が上ということもあって乗り心地や後席の居住性は快適だった。なんといってもゴールドのマグネシウム合金のカンパニョーロアルミにMOMOステというだけで心躍ったものだ。

1984年10月にターボモデルを国際ラリー規格グループBに合わせて排気量を993ccから926ccへとダウンサイジングしたホモロゲーションモデル、シャレード926ターボを200台限定で発売。1985年のサファリラリーに初エントリーながら初優勝(グループAでも1-2フィニッシュ)

 後に限定200台のホモロゲモデルのシャレード926ターボ(76ps/11.0kgmを発生する993cc直3SOHCターボ)に試乗させてもらった時に、車重が690kgと軽いこともあって、シャレード・デ・トマソターボを含めてダイハツは偉大だと感心した。

 それから30年以上経った2017年と2018年の東京オートサロンに、ダイハツは、このシャレード・デ・トマソターボの実車を展示するとともに、このシャレード・デ・トマソターボを彷彿とさせるブーン・スポルトパッケージを出展。この時ばかりは色めきたったが、50を超えたおじさんにはさすがに購入を決意するまでにはいたらなかった。

2017年の東京オートサロンで発表された、シャレード・デ・トマソターボを彷彿とさせるブーン

 やっぱり本物が欲しいのである。ダイハツは2017年時点でシャレード・デ・トマソターボを中古車市場で探していたそうだが見つからなかったそうだ。

 改めて、大手中古車情報をサイトを検索してみたが、やはり初代シャレードデ・トマソターボの在庫車はなかった。ちなみに2代目シャレード・デトマソターボも、約98万円、約79万円と2台しかなかった。もし、中古車市場に流通したら、程度を見極めたうえで、買いたいと思っている。

■ダイハツシャレード・デ・トマソターボ主要諸元
ボディサイズ:全長3600×全幅1575×全高1390mm
ホイールベース:2320mm
車両重量:690㎏
エンジン:CB50型993㏄、直3ターボ
ボア×ストローク:76.0×73.0
圧縮比:8.0
最高出力:80ps/5500rpm
最大トルク:12.0kgm/3500rpm
10モード燃費:18.8㎞/L
サスペンション:前ストラット、後5リンク式SP
タイヤ:165/65R14ピレリP8
新車当時の価格:123.0万円

歴代シャレード デ・トマソ年表
●1981年10月/第24回東京モーターショーにシャレードをベースにした「シャレード・デ・トマソターボ」を参考出品
●1983年10月/第25回東京モーターショーでも「シャレード・デ・トマソターボ」を参考出品
●1984年1月/東京モーターショーに参考出品した「シャレード・デ・トマソターボ」(初代デ・トマソ)を発売
●1985年2月/「シャレード・デ・トマソターボ」マイナーチェンジ
●同年6月/「シャレード・デ・トマソ・ビアンカ」を限定600台で発売
●同年10月/第26回東京モーターショーに2代目シャレードをベースにミドシップに改造したプロトタイプカー「シャレード・デ・トマソ926R」を参考出品
●1986年9月/「シャレード・デ・トマソリミテッド」を限定300台で発売
●1987年10月/第27回東京モーターショーに3代目シャレードをベースにした「シャレード・デ・トマソ」を参考出品
●1993年8月/「シャレード・デ・トマソ」(2代目デ・トマソ)を発売
●1994年8月/「シャレード・デ・トマソ・ビアンカ」を限定200台で発売

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