スタンダードな使い勝手と走りのバランスが魅力のコンパクトカー。スズキが渾身のフルモデルチェンジを実施して新型に進化したスイフトを水野さんはどう評価するのか? トータルバランスに優れるフィットと直接対決!!

※本稿は2024年5月のものです
文:水野和敏/写真:奥隅圭之
初出:『ベストカー』2024年6月26日号

■新型登場のスイフトとマイナーチェンジ後のフィット

スイフトは前型からモデルチェンジしてやや仕上げが雑になった印象を受けるという水野さん。のっけから手厳しい!

 今回は販売の中心となっているコンパクトカーで、モデルチェンジをして新型になったスズキ スイフトと、ホンダ フィットです。フィットは以前も取り上げましたが、先日マイナーチェンジをしたので改めて確認をしてみます。

 スイフトのモデルチェンジは大いに気になります。先代型を取り上げた際、とてもよい印象で、実際に高い評価をしています。

 さっそくエンジンルームを見ると、ストラットアッパーが、左右のフードリッジメンバーと一緒に鋼板プレス製のクロスメンバーで繋がっています。これは大きな構造上のポイントです。

 ダッシュパネルも含め、すべてを鋼板プレス製のクロスメンバーで一体構造として結合することで、精度がよく剛性も高い構造体を作っています。

 新開発の3気筒エンジンはコンパクトですね。NAエンジンの前方排気配置は、最近は少なくなりました。

 排気マニホールドをなくしてヘッドの内部で3気筒分のエキゾーストをまとめて直接触媒に送り、特にコールド(低温)スタートの時に、温度低下が少ない排気ガスで触媒を素早く反応させCO2の削減や燃費向上を図っています。

 フィットは直4、1.5Lのe:HEVです。

 それにしてもスイフトのフードのセカンダリー解除レバーは華奢で、力を入れて操作したら折れてしまいそうです。カシメの精度も甘く、グラついています。

 スイフトとフィットを並べると、プロポーションは真逆のコンセプトです。フィットは、室内を広く見せるために、ミニバンのように、Aピラーを浅く寝かせてフロントフェンダーと直線的に繋いだワンモーションスタイルにしています。

 一方スイフトはボンネットのユニークなデザイン面を活かすために、Aピラーは後方に立たせて配置しています。

せっかく豊かな面を作り出しているのに、フードのパーティングラインが分断してしまっている。新型スイフトのフロント部に触れつつ残念そうな水野さん

 スイフトのソリッド感あるボンネットのデザイン面の構成はよいのですが、この造形面の一番目立つところに隙間がバラバラに見えるフードのパーティングライン(分割する線)が設けられています。

 質感があるデザイン面のユニークな魅力が、パーティングラインにより半減されています。残念です! パーティングラインの配置や見栄えを一定隙間に見せるための、実際の寸法の修正(クジラ補正)に気遣いがほしいです。

 スイフトを斜め前方から見ると、中央部分の隙間(約6mm程度)と、その側面部分の隙間(約10mm程度)の見栄えやグリルとの段差感は違って見えます。

 さらに、内部が黒色で隙間が拡大して見えるヘッドランプ上面の部分と、面の傾きにより隙間が狭く見えるAピラー付近など、パーティングラインの隙間が場所によってバラバラに見えるために、フード造形面のソリッドな上質感が分断されています。

 そして、スイフトはリアハッチゲートのパーティングラインも隙間がばらついて大きく、「雑」な印象を受けてしまいます。

 フィットはAピラーのラインの延長線上にフードのパーティングがあるためスッキリとした構成になっています。ただ、Aピラーとフードの接合部は実隙間を4mm程度まで追い込んでほしい。そうなるとフードのキャラクターラインと繋がって、よりデザインの意図が明確になります。少し雑な設計です。

 先ほども指摘しましたが、フィットはワンモーションフォルムです。外から見えるAピラーは実はフロントガラス取り付けの窓枠で、車体構造の骨格となる“本当のAピラー”は前ドアを開けた時に開口部となる三角窓の後ろの柱です。衝突時に入力を受け止めるのはこちらのピラーです。

ワンモーションフォルムを作るフィットのAピラーは右左折時の視界を遮ってしまう

 運転席に座ると、前方のピラーはちゃんと細くして、極力前方のコーナー視界を邪魔しないようにしていることは理解しますが、それでもやはり右左折時の視界を遮っています。

 しかもこのワンモーションフォルムは空力でも優位性はありません。べたりと寝た小さな角度のフロントウィンドウを流れてきた風は、ルーフ先端の角部で剥離して乱流を作ります。この乱流が車体後方に渦を作ります。

 スイフトの切り立ったフロントウィンドウはガラス面とルーフ先端の接合部の高さなど、比較的空力を考慮した造形です。

 デザイナーはフロントウィンドウの上端をもっと上まで伸ばしたいと考えますが、このようにルーフ先端を少し下に延長すると、フロントガラス取り付け部の段差で生じる乱流(渦)を抑止できます。ポルシェやR35GT-Rはこの手法を使っています。

 運転席に座って前方視界を確認すると、スイフトのほうが右左折時の視界はクリアです。

■もっとシンプルな内装デザインなら!

スズキ スイフトの前席。ややクッションが硬いがホールド性は良好。ペダル配置は適正で踏み間違えを抑止する

 スイフトのアクセルペダルはずいぶんと外側にオフセットさせていますね。ブレーキペダルとの高さにも差をつけていて、これだけ離していればペダルを共踏みする危険性は大幅に減り、踏み間違いのリスクも減ります。

 シートはちょっとクッションが硬めながらホールド性は高く、疲れません。体重をかけて座っている間に徐々にクッションが身体の形状に馴染んできます。

 インパネは相変わらずのスズキ的なガチャガチャ感があります。エアコンの吹き出し口が取ってつけたような造形ですが、これなどはいつも言っているように、粘土での造形検討時には色の違いや素材による反射の差異などがなく、気にならないのです。

 ところが実際の樹脂になって、シボや色が入るとそれぞれの部位が単独で目立ってしまうのです。

 メーターはシンプルな2眼タイプのアナログ指針タイプですが、数字の書体やサイズなどが大きく見やすいです。これはいいと思います。

 ステアリングはせっかく本革でしっとりした手触りが好印象なのに、下部に樹脂製の装飾をつけているのはデザインなのでしょうが、無駄です。インパネとの色味を合わせているわけでもないので、さらに統一感がなくなっています。

 後席ドアはコンパクトカーならば90度近く大きく開いてほしいです。とはいえ、足元の開口部は広く、乗降性は悪くありません。後席に座ると足元は前席の座面下にスッと入るので狭さを感じることはありません。側突対応で後席乗員を内側にオフセットさせていないのもいい。しっかりと3人座れる後席です。

スイフトの後席は背もたれが立ちすぎていて窮屈な姿勢となる

 後席の背もたれはずいぶんと立っています。一般的には24〜25度なのですが、スイフトは22度前後です。さらに背面クッションが硬く身体が沈まないので、より立って感じます。足元は充分広いのだから、背もたれをあと2〜3度寝かせて足を前に投げ出す姿勢にしても窮屈ではありません。

 スイフトの荷室は深さがあって嵩のある荷物を積みやすいですね。後席は6対4で倒れますが、特に座面がリンクで下がるような構造ではないため、荷室フロアと段差が少しあります。

■使い勝手に優れる室内空間を演出

フィットのシートは先端がRを描いていて膝裏に優しく、座り心地もいい

 フィットの荷室はフロアが高いですが、これはe:HEV用のバッテリーをこの位置に搭載するためです。6対4分割で倒れる後席は、リンクで座面が下がるため低くフラットに収納できます。こうした使い勝手はさすがはフィットですね。また、室内細部の仕上げも丁寧で、質感の高さを感じます。

 リアハッチゲートの開閉時に、どの高さまで上げた時点でスッと上がるか? あるいは閉める動作をした時に、どの高さ以下で自重でストンと閉まるか? これはスイフトのほうが自然で使いやすい位置に設定されています。

 フィットは「この高さなら自重で落ちるだろう」という位置で手を離しても、スッと開いてしまうことがあります。閉めたつもりのゲートが上がって顔に当たるケースもあります。

 運転席に座ります。フィットのシートはいいですね。座面クッション先端が下部に回り込んでいるため、膝裏に角が当たって痛いこともないし、腿裏をサポートするので疲れません。最近のホンダ車は全体的にシートがいいです。

 ドライビングポジションも調整の幅が広くていい。ステアリングはチルトだけではなくテレスコ調整もできます。

 液晶表示のメーターは、シンプルな表示で面白みはないけれど文字が大きくて視認性には優れているのでいいと思います。

 しかし、フィットのホワイトのシートは濡れたジーンズや子どもの乗車で汚れてしまいそうです。

フィットはリアシートもクッションが厚く快適な着座感

 後席は座面の前後長がたっぷりとあるし、クッションストロークもあり、これはいいシートです。乗降時にお尻を滑らせるサイド部は合皮になっていてスルリとお尻が出し入れできる。座面と背もたれのクロスは滑りにくい素材なので身体が動きません。

 また、前席のヘッドレストや背もたれ上部の肩部分の張り出しを削っているため、後席からの前方視界がよく、開放感があります。

 前席の座面後部が弓なりに削られているため膝スペースに余裕があるし、乗降時の足の出し入れもスムーズです。フィットの室内空間は、利便性や実用性が自慢なだけあってよく考えられています。

■スズキ スイフト

山道をキビキビ走るのならスイフトが楽しいが、街中ではフィットのマイルドな乗り心地が快適だ

 さあ、いつものようにゆっくりと歩くほどの速度で動きながらステアリングを左右に大きく回します。

 操舵に対するフロントの反応がシャープでリニアです。前型に比べ、フロントサスのスプリングを硬くしています。一方、ショックアブソーバーの減衰を緩めています。スプリングの硬さでフロントの反応を作っているので、ショックアブの作動領域や入力荷重によって操舵に対する反応に変化はありません。

 これは面白い。下り込みのコーナリングで前輪の前のめり荷重が大きな場面でも、変にお辞儀をする姿勢になることはなく、安定した姿勢でスッとノーズは向きを変えます。

 一方で波状路や橋の段差など、小さな凹凸が連続するような場面ではポンポンと跳ねるような動きを感じます。ショックアブの減衰が不足して動きを抑えきれていません。また、タイヤのザラザラ感や、トレッド面が路面を叩く音や振動もダイレクトに感じます。スプリングの硬さが要因です。

 操縦特性としては、基本的にフロントをスパッスパッと動かして、相対的にリアは粘らせながら追従させる。若干リアの動きが遅れる傾向です。前輪はコーナリングでも接地面変化が抑えられていて外当たりしません。

 ビタリと路面に接地しています。リアも硬いバネとトーションビームとのバランスのよさで接地変化を抑えてタイヤのグリップ力を引き出しています。安心感の高い操縦性。山道をヒラリヒラリ気持ちよく走るにはとてもいいです。

 ブレーキはペダルに足を乗せただけでググっと利きます。ちょっとオーバーサーボ気味です。慣れないとカックンブレーキになってしまいます。

 ただ、日常の走行を主体とする、特に小柄なドライバーには、踏んだ瞬間にこれくらいグググと減速しないと「利かないブレーキ」と思われるので、意図的にこのような利かせ方にしているのだと思います。

 ただ、スイフトはダッシュパネルを含めたフロントセクションの車体剛性がとても高いので、このようなオーバーサーボにしなくても、踏力にリニアな利きのブレーキセットにしても、安心感のあるブレーキはできると思います。

 急制動時の前後バランスや利きは素晴らしい。後輪の制動力もしっかりと使い安定した姿勢で止まります。

 3気筒の1.2Lエンジンはターンパイクのキツイ上り坂でもしっかりと加速してくれます。

 30km/hからアクセルを踏んだ瞬間にポンとトルクが立ち上がりますが、これはマイルドハイブリッドのモーターアシストの「ひと押し」が活きています。モーターアシストが切られると、駆動トルクは少し抜けますが、一般的な走行では力不足は感じません。街中でも軽快です。

 回転を上げても3気筒特有の振動はありませんし、エンジン騒音による不快感もありません。

 操縦性も含めて素直な走りで楽しいクルマです。

■ホンダ フィット

全体的にシャッキリ&ソリッドな操縦性のスイフトに対し、フィットはソフトな操縦性だ

 例によって歩くほどの速度で走り出します。スイフトの後だとずいぶんと足がソフトに感じますが、これが標準的です。

 バネがソフトでショックアブの減衰力で姿勢の制御をしています。操舵に対する車体反応の左右差はありません。しっかりとした車体です。全体的に穏やかな動きなのですが、リアショックアブの伸び側減衰が強く、連続する微小段差通過でサスが伸び切らない「底付き」によるゴツゴツが発生します。

 操縦性はリアの動きは抑え込んで、フロントを軽快に動かすチューニング。スイフトとは真逆のセッティングです。下り込みのコーナリングでは「フロントの外輪が沈み込んでロールする量も大きく」、つんのめる姿勢となります。

 急制動でもノーズダイブが大きく後輪の接地が抜け気味になります。

 リアの振動がルーフレールで増幅されて耳元で“ゴー”というロードノイズが響きます。リアサスのブッシュが硬く、リアフロアからピラーに振動が伝わるのが原因。

 アクセルに対するトルクはモーター動力の特性でシャープにグイと立ち上がります。動力性能不足を感じることはありません。ただ、エンジンは回転が上がると吸気騒音がガーガーと大きくなります。

■スズキ スイフト(HYBRID MZ)……90点

新型スズキ スイフトに水野さんは90点をつけた

 基本的には前型をリファインしたデザインコンセプトだが、ボンネットフードや、ハッチゲートのパーティングライン隙間の見栄えの処理が粗く、特にフロントセクションではソリッド感のあるユニークな面構成を分断しているのは残念。

 車体構造は合理的な改良がされていて、フロント周りは精度よくガッチリした構造になった。これを活かした硬いバネレートのサスセッティングが新型スイフトの操縦性のキモとなっている。

 街中での乗り心地は突き上げを感じるが、山道を走ると接地性がよく軽快な操縦性。3気筒エンジンも振動を抑えている。動力性能にも不満はない。

●水野和敏 スズキ スイフト取材メモ

・新開発1.2L直列3気筒エンジンは振動をうまく抑えており、吸気音も静か。マイルドハイブリッドのモーターアシストによりトルクレスポンスにも優れる。

・前後サスともにバネレートを高めてショックアブの減衰を弱めたセットアップ。操舵に対しフロントがしっかりと反応して軽快な操縦特性だ。

・内装も外装も、全体的に仕上げが粗い印象。特にパネル面の合わせなどはもっと精緻にしてほしい。

●スズキスイフトHYBRID MZ
・全長:3860mm
・全幅:1695mm
・全高:1500mm
・ホイールベース:2450mm
・最低地上高:120mm
・最小回転半径:4.8m
・車両重量:950kg
・エンジン:直列3気筒DOHC
・総排気量:1197cc
・最高出力:82ps/5700rpm
・最大トルク:11.0kgm/4500rpm
・モーター:3.1ps、6.1kgm
・トランスミッション:CVT
・WLTCモード燃費:24.5km/L
・Fサスペンション:ストラット
・Rサスペンション:トーションビーム
・タイヤサイズ:185/55R16
・車両価格:216万70000円

■ホンダ フィット(HOME e:HEV)……89点

ホンダ フィットに水野さんは89点をつけた

 ワンモーションのプロポーションはコンパクトカーというよりもミニバン的。外からはAピラーに見える部分はフロントウィンドウの「窓枠」で、本当のAピラーは前席ドア開口部前部にある。この「窓枠」が右左折時の視界を邪魔する。

 室内の利便性や実用性が優れているのはフィットの魅力。後席は前倒時にリンク機構で座面が沈み込むので低くフラットな荷室を作り出せる。この後席は座面長が長く、背もたれの形状もよくフィット感に優れるため疲労も少ない。

 操縦性は全体的にソフトな乗り心地。フロントを特にソフトにした、前のめりによる軽快感の演出は少しマイナスな評価となる。

●水野和敏 ホンダ フィット取材メモ

・直4,1.5Lエンジンを使うe:HEV。一般道でのドライブではほぼモーター動力のみで走り、アクセルに対するトルクレスポンスに優れ、ドライバビリティは優秀。

・ソフトな足回りは、リアサスをしっかりと軸にしてフロントを自由に動かすセッティング。フロント荷重ではややつんのめる姿勢になってしまう。

・低いフロアを活かした室内空間はホンダのお得意。後席の座り心地などはコンパクトカーのレベルではない。

●ホンダ フィットHOME e:HEV
・全長:3995mm
・全幅:1695mm
・全高:1540mm
・ホイールベース:2530mm
・最低地上高:135mm
・最小回転半径:4.9m
・車両重量:1190kg
・エンジン:直列4気筒DOHC
・総排気量:1496cc
・最高出力:106ps/6000-6400rpm
・最大トルク:13.0kgm/4500-5000rpm
・モーター:123ps/25.8kgm
・トランスミッション:電気式無段変速機
・WLTCモード燃費:29.0km/L
・Fサスペンション:ストラット
・Rサスペンション:トーションビーム
・タイヤサイズ:185/60R16
・車両価格:225万0600円

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