車体のほぼ中央にエンジンを搭載するのがミドシップレイアウト。高性能スポーツカーに多いこのスタイルは、一種の憧れの対象にもなりうる。では、ミドシップのどこがそんなに魅力的なのか? その検証を進めていきたい。

文:長谷川 敦/写真:トヨタ、ホンダ、日産、ランボルギーニ、NewsPress UK

■ミドシップについておさらいしよう

3代目マツダ RX-7。エンジンは運転席より前に搭載されるが、全長の短いロータリーエンジンの特徴を生かし、前後重量配分50対50を実現したフロントミドシップモデルだった

 クルマを構成する要素のなかでも、重量という点でかなりの割合を占めているのがエンジンだ。運動、特に旋回する物体としてクルマをとらえた場合、重い物はなるべく車体の中心に置きたい。

 重い物が車体の端にあると、それによって前後のタイヤに加わる荷重に偏りが出てしまい、遠心力の影響も受けやすくなる。

 だから自由に設計できる純粋なレースカーはドライバーシートと後輪の間にエンジンを搭載するミドシップレイアウトを採用し、俊敏さを重視するスポーツカーでもこれにならったものが多い。

 なお、仮に車体前後の重量配分が50対50を理想とすると、工夫次第でドライバーの前にエンジンがあってもこの重量配分は実現でき、こうしたレイアウトはフロントミドシップと呼ばれている。

 とはいえ今回は、リアタイヤの前にエンジンを置く伝統的なミドシップレイアウトに注目して話を進めていく。

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■ミドシップの魅力はどこにある?

ミドシップスポーツのMR-S

■魅力その1・重量の集中化

 ミドシップ最大のメリットは重量物を集中化できることだ。走行するクルマの向きを変えたい場合、特に高速域では前後のどちらかが重すぎると旋回を始めるまでに時間がかかることが多い。

 例えば前が極端に重いと、ハンドルを操作してから実際に向きが変わるまでのタイムラグが大きくなる。これは慣性のついた重い物体を動かすのに大きな力が必要だから。

 その点、ミドシップならコーナーでもクイックに向きを変えてくれる。反対に車体の後ろが重いと、ハンドルの応答性こそ軽くなるものの、リアがどっしりしすぎて曲がりにくくなる。

 また、一度リアが滑り出してしまうと今度は重量による慣性が大きくて滑りが止まらない(≒スピン)状態に陥る可能性もある。

 リアエンジン車の代表格であるポルシェ 911シリーズのドライブが難しいといわれる理由がこれだ。

 つまり、ミドシップレイアウトの重量配分は理想的な運動性能をもたらすということ。

■魅力その2・圧倒的な加速感

 フロントエンジン搭載車に比べてミドシップ車の前後重量配分は後ろ寄りになることが多く、これで駆動輪であるリアタイヤへの荷重が高くなる。そのためアクセルを踏んだ際のリアトラクションと応答性が高くなって力強い加速感を得られる。

 ミドシップ車を運転したことがある人なら、アクセルオンで後ろから押される感覚を体験しているはずだ。

■魅力その3・スポーティなルックスにできる

 エンジンが運転席より後ろに搭載されるミドシップ車は、そのぶんフロントのボディ高を低くすることが可能になる。これで低めのフロントから高いリアに流れるウェッジシェイプが形成できる。

 スタイルのよし悪しは個人の好みによるところが大きいものの、低く構えたフォルムがカッコいいという人は多い。

 当然ながら全高の低いボディは空力性能にも優れていて、これはスポーツカーにとって大きなメリットになる。

■魅力その4・非日常を感じられる

 一部の例外はあるが、基本的に2人乗りでトランクスペースも小さいミドシップスポーツカーの実用性は低い。

 しかし、この実用性の低さすらスポーツカーでは魅力になる。趣味でクルマに乗る人は、日常から離れてドライブを楽しみたいのであり、その点においてミドシップスポーツカーの非日常性はメリットにもなりうる。

 もちろん、ミドシップスポーツカーを日常使いしている人も存在するが、だからといって実用性でミドシップを選んでいるわけではないはずだ。

■ミドシップゆえの悲劇?

1996年に発売されたフェラーリ 550マラネロ。12気筒エンジンはミドシップではなくフロントに搭載されている。これはスペース効率を重視したため

 先に紹介したミドシップ車の魅力は、見方を変えれば減点対象にもなる。俊敏な操縦性は乗り手の技能を要求するし、街乗りでは加速性能の高さにも配慮しなくてはいけない。

 信号が変わって軽くアクセルを踏んだつもりが、勢いよく加速してビックリすることもある。

 乗車人数が少ないことや、多くの荷物を積めないこともミドシップ車の弱点だ。実用性を重視しないスポーツカーであっても、乗車&荷物スペースが小さすぎるミドシップレイアウトが敬遠されるケースもある。

 大排気量&V型12気筒のような大きなエンジンをミドシップ搭載するのはスペース的にも難しく、フロントエンジンを選択する大排気量スポーツカーも多い。

 さらにこれはミドシップ車にかぎった話ではないが、スポーツカーは保険料や維持費が高くなる傾向があり、このことも難点のひとつといえる。

■それでもミドシップを選んだモデル4選

1990年に登場した初代NSX

 最後は現在までに登場した注目のミドシップスポーツカーをピックアップして紹介する。

 なかには“なんちゃってミドシップ”と揶揄されたモデルもあるが、それぞれに大きな魅力を持ったクルマなのは間違いない。

■フェラーリ 365GT4BB

 1970年代の日本に巻き起こったスーパーブームにおける主役の1台がこのクルマ。イタリアの名門フェラーリが1973年に販売した同社のフラッグシップモデルであり、V型12気筒エンジンをミドシップに搭載する。

 カタログスペックの最高速度302km/hも話題になったが、4.4LのV12気筒エンジンをミドシップ搭載するためにマウント位置を上げざるをえず、本来のミドシップ車が持つ運動性能はスポイルされていた。

■ランボルギーニ カウンタック

 フェラーリ 365GT4BBを紹介するなら、このカウンタックも登場させないわけにはいかない。365GT4BBに遅れること1年、同じイタリアのランボルギーニ社がリリースしたカウンタックは、イタリア北西部の感嘆表現である「クンタッチ」を車名にし、その内容でも周囲を驚かせた。

 初期モデルでは3.9LのV12エンジンをミドシップマウント、典型的なウェッジシェイプのボディは、ほかのどのクルマにも似ていないスタイルだった。最終的にカウンタックは16年間生産されるロングセラーモデルとなった。

■ホンダ NSX(初代)

 1990年にホンダから登場したミドシップスポーツカー。エンジンはホンダ レジェンドのV6をベースに開発し、モノコックボディはオールアルミ製の軽量仕上げと、国産スーパースポーツカーにふさわしい内容を持っていた。

 しかし、後部のトランクスペースを確保するためにエンジンは横置き搭載され、ギアボックスをエンジンの側面に配置する特異なレイアウトを採用していたため、この初代NSXを純粋なミドシップスポーツとは見なさない風潮もある。

■トヨタMR2/MR-S

 トヨタが1984年に発売した初代MR2と、その実質的な後継車種として1999年にデビューしたMR-Sは、いずれもFF車のコンポーネンツを流用して生まれたミドシップスポーツカーだ。

 FF車の直4エンジンとギアボックスを逆向きにして、リアタイヤの前に搭載することによってミドシップを実現したMR2とMR-Sは、手頃な価格でミドシップスポーツを市場に提供するという目標を実現した。

 一部には高く評価されたMR2&MR-Sだったが、商業面では成功したといえず、それぞれ比較的短命なモデルに終わっている。

 ますますエコが重視される現在は、効率的とはいえないミドシップにとって肩身が狭い状況になっている。しかし、ミドシップスポーツカーにはほかのレイアウトにはない魅力があり、それに憧れるドライバーがいるのも事実だ。将来的なミドシップスポーツの復権に期待したい。

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