2018年から富士スピードウェイで開催されているスーパー耐久シリーズ「富士SUPER TEC24時間レース」。回を重ねるごとに盛り上がりを見せ、7回目となる2024年大会は8つのクラスに59台が参戦し、予選と決勝3日間で5万5000人ものファンが詰めかけた。24時間レースならではの工夫と苦労話を、レースを支えるSTMO(スーパー耐久未来機構)と富士スピードウェイ、二人の「裏方」に聞いてみた。

文:ベストカーWeb編集部/写真:編集部、SPS-JS、Noriaki MITSUHASHI / N-RAK PHOTO AGENCY

■世界一安全な24時間レースにしたいという強いこだわり

レース前にSTMOのシャツを着て全チームに挨拶をした理事長のモリゾウさん。完走したクルマに乗るドライバーひとりひとりに声をかけていた姿も印象的だった(PHOTO:Noriaki MITSUHASHI / N-RAK PHOTO AGENCY)

 まずお話を聞いたのはSTMO(スーパー耐久未来機構)のスーパーバイザーを務める高谷克実さん。「ミスタースーパー耐久」と言えばこの方。スーパー耐久、特に24時間レースの特徴をプロモーターの立場からお聞きした。

 高谷さんはまず、富士SUPER TEC24時間レースを世界一安全な24時間レースにしたいという想いでレースの運営を行っている。実際にこれほど接触が少なく安全に運営されている24時間レースはほかに例がないという。

 アジアをはじめ海外からの注目度が高いが、「スーパー耐久は日本の文化であり、それを理解したうえでないと参戦をお断りします」ときっぱりと言う。今回も海外の2チームが初参戦したが、レースウィークでなく事前に講習を受けることを条件にしている。速さだけを求めるレースではないことを理解してもらうことが重要だからだ。

STMOでスーパーバイザーを務める高谷克実さん。世界一安全な24時間レースであることにこだわる

 また外国人、日本人に関わらず、初めてスーパー耐久に出場する選手にはレースウィークに約30分の講習を受けることを義務付けており、今回は近藤真彦選手も講習を受けた。

「速さだけを競うレースだとやはり接触が起きてしまいます。でも接触がおきると大きな事故につながり、ドライバーの安全にかかわることもあります。さらにメカニックの負担が増え、修理にお金が必要になるなど、チームには大きな負担になります。スーパーGTやスーパーフォーミュラと違ってチームを運営する資金に限りがあるチームも多く、接触をなくすことが何より大事なのです」
と、安全にこだわる理由を教えてくれた。

 ローカルレースから上がってきたアマチュアドライバーとプロドライバーが混在し、最も速いST-XのGT3マシンとST-5の1.5LのNAマシンでは1周で20秒近いタイム差がある。速さだけにこだわれば、たちまち大きな事故が生まれてしまうはずだ。しかし、そうならないのは、速さだけにこだわらないことと日本人の持つ礼儀正しさによるのだ。

 そのことが市販ベースのいろいろなマシンが混在して走るというスーパー耐久レースの面白さにつながっている。またスーパー耐久レースではジャッジについてもいきなりペナルティを出すのではなく、1度目は「イエローカード」のような形で注意をし、指導していくというようなこともしている。厳格なジャッジのなか、レース嫌いにさせない工夫があるのだ。

「レーサーはもちろん、チームの育成や安全面での啓蒙もプロモーターとしての大事な仕事です。そして若手だけでなく70歳のドライバーにとっても24時間レースに出場することは大きな目標になっていて、アマチュアドライバーの目線を外してはならないと思っています」と話す。

■STMO理事長モリゾウさんが目指す村祭りとしての24時間レース

24時間レースでは、富士スピードウェイのコントロールタワー内にある管制室には全国のサーキットから競技長が集まる

 スーパー耐久レースはもともと参加型のレースということもあって、お客さんのサービスという点はなかなかできてこなかったというが、24時間レースが始まってから、富士スピードウェイの協力もあって、家族や友人たちでテントを張ってBBQをしながら、レースを楽しむという今の形ができてきたという。

 STMOの新理事長にモリゾウさんが就任し、「富士の24時間レースは村祭りのようになっていけたらいい」と語るように、エントラントにもファンにも敷居が低く、みんなが盛り上がれるレースを目指していくという。

「レースを1度も見たことがなかった人たちがサーキットに足を運んでいただき、地元の人たちにレースを見ていただくことで、モータースポーツの理解が深まることになると思います」と高谷さんは語る。

 プロモーターとして一番うれしいことはなんですか? の問いには「エントラントの笑顔、お客さんの笑顔が見られた時が一番うれしいですね」と教えてくれた。

さまざまなクラスがあり、スピード差のあるクルマが混走するところが、ほかのレースにはないスーパー耐久の魅力になっている

■村祭りを支える400人を超えるレースオフィシャル

富士スピードウェイのことならなんでも知っている長田誠記モータースポーツ部部長

今度は富士スピードウェイ・モータースポーツ部部長の長田誠記さんにどんなご苦労があるのか聞いてみた。

「サーキットとしてはオフィシャルを集めることが大きな仕事になっています」という。オフィシャルとはレースオフィシャルのことで、サーキットに行くと必ず見かけるオレンジ色のつなぎを着た人たちのことだ。

 オブザベーションポストと呼ばれるコース脇に設置された小屋からフラッグを振る人や、レース中にクラッシュや故障などトラブルに見舞われた車両を撤去する人などは、観客が目にするレースオフィシャルの代表的な仕事だ。そのほかにもタイムを計測したり車検をおこなったりするのもレースオフィシャルの重要な仕事だ。

 彼らがいなければレースは成り立たないが、基本はボランティアで24時間レースとなると富士スピードウェイだけではなく全国のサーキットとモータースポーツクラブから集まり、その数合わせて400人以上となる。富士SUPER TEC24時間レースはレースオフィシャルにとっても特別な大会なのだ。

 レースオフィシャルを集めるだけでなく、組織を作ることも必要だ。さらに食事や仮眠部屋などサーキットの受け入れ態勢も重要だ。

「富士SUPER TEC24時間レースが年々盛り上がってきているので、このレースを楽しみにしているという方も多いですし、お互い交流することで学びの場にもなっているようです」と長田さんは教えてくれた。

 24時間レースはエントラントに加え、ファンやプロモーター、サーキット、そしてレースオフィシャルによって支えられている。今回の盛り上がりを来年につなげ、世界一笑顔が集まる24時間レースに成長していってほしい。

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