クルマと道路は切っても切り離せないもの。交通ジャーナリストの清水草一が、毎回、道路についてわかりやすく解説する当コーナー。今回は、高速道路のSAPA(サービスエリア・パーキングエリア)にあるにEV用の急速充電器について考察する!

文/清水草一、写真/フォッケウルフ

■週末の充電スポット混雑は解消されつつある?

 このところ、高速道路のSAPAに、EV用急速充電器の設置が急速に進んでいる。

 昨年度は、新たに129充電口の設置が完了し、511口から640口に。今年度はさらに248口増設され、888口になる予定だ。

 高級輸入EVなら、充電費用など度外視して購入する富裕層も少なくないが、コストにこだわってEVを買う場合は、自宅で普通充電するのが基本になる。外で急速充電するのに比べると、おおむね半分以下の料金で充電できるからである。

 自宅での充電が基本なら、急速充電器を使うのはロングドライブ時が中心になる。ロングドライブは通常、高速道路を使う。つまり多くのEVユーザーにとって、最も必要とされる急速充電スポットは、高速道路のSAPA内となる。

 ところが日本では、「急速充電器は1か所に1基」が基本だったため、ほとんどのSAPAが、急速充電器1基のみだった。経産省が1か所につき1基までしか補助金を出していなかったためで、先客がいれば待たなければならず、充電スポットが混雑する週末は、SAPAでの充電をあきらめるケースも多発。EV普及の妨げとなっていた。

90kWの急速充電器が6口並ぶ、東北自動車道・蓮田SA

 そんな状況を打破するため、SAPAへの急速充電器の増設が進んでいるのは、EVユーザーにとって吉報だ。

 しかし、EVユーザー予備軍の目から見ると、まだまだ障害がある。最大の難点は、充電器の性能(最大出力)がバラバラで、しかもそれが判別しづらいことだ。

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■時間制の問題と表示の有無

 SAPAには、いろいろな種類の急速充電器が設置されている。従来は最大出力40kWや50kWが中心だったが、最近新設されているのは、90kWや150kWといった高性能器だ。

 現在、チャデモの急速充電器の利用料は時間制。40kW器でも150kW器でも、時間あたりの利用料は同じなので、高出力の充電器を使ったほうが割安になる(eモビリティパワーのビジター料金は90kW器以上の場合4割高になるが、それでも割安)。

 ガソリンで言えば、「リッターいくら」ではなく、ガソリンスタンドの滞在時間でガソリン代が決まるようなもので不条理すぎる。EVユーザーは、少しでも高出力の充電器を使いたいと考えることになる。

 ところが、日本の急速充電器には、最大出力がわかりやすく表示されていない。新電元製の150kW器は「最大150kW」と赤い文字で書いてあるが、他の機器にはそのような表示がない。入口にガソリン価格が表示されていないセルフスタンドみたいなものだ。

 しかも急速充電器の場合、最大出力で3倍以上の開きがある。「入れてみたらガソリン単価が3倍でした」なんてことがあったら、ドライバーは激怒するが、EVではそんな状況がアタリマエ。慣れれば機器で見分けがつくようになるとは言え、EVを初めて買おうとしているユーザーには不安だらけだ。

 実際にEVユーザーになれば、スマホのアプリ等で各SAPAの充電器の性能を確認できることに気付くが、それでも不安は残る。

 たとえば東名・海老名SA。上下線それぞれ3基づつ充電器があり、うち2基が50kW、1基が90kWだが、そういった表示が機器に書かれていない。EV初心者は、どれがどれだがサッパリわからない。

 新東名の浜松SAは上下線とも90kWが6口、150kWが2口、合計8口の急速充電器が並んでいるが、性能が違う充電器が同じ場所にあるだけで、初心者は戸惑う。

浜松SAの充電器設置ゾーン。6口の90kW急速充電器が並び、その隣に形状の異なる150kWの急速充電器が2口用意されている

 浜松SAの場合、150kW器にはそう書いてあるからまだいいが、遠くからはよくわからない。ガソリンスタンドの価格看板のように、一目で判別できるくらい大きく表示すべきだ。

■新型充電器使用時の出力低下について

 しかも新型の90kW器や150kW器は、EV初心者には驚愕の事実が隠されている。同時に複数のEVが充電を始めると、充電速度がかなり低下するのである。

 ニチコン製の90kW×6口器は、1口あたり最大90kWの充電性能を持ち、2台までならその性能を維持できる(はず)だが、6口合計で最大200kWなので、4台以上が同時に充電を始めると、最大20kW(!)まで出力が低下して充電単価が大幅に上昇する口も出る。

 新電元製の2口分割型150kW器は1口の使用なら最大150kW出る(はずだ)が、それは最初の15分間だけ。しかも2口同時に使い始めると、自動的に最大90kWに低下する。

 浜松SAの場合、90kW6口+150kW2口。誰もができるだけ高性能な充電器を使いたいから、150kW器に人気が集中するが、8口のうち150kW1口のみ使用中の場合は、残り7口すべて最大出力90kWで同じになる。

 そんなことはどこにも説明がないから、わざわざ隣の150kWを使うEVもいる。しかもそれが、充電受け入れ性能の低い先代リーフだったりすると、先客は内心舌打ちすることになる。

東北自動車道の那須高原SAでは、現在、上り線下り線ともに40kWの充電器が1口のみという状況。設置数の増加が望まれる

 SAPAへの急速充電器の増設は、前述のようにEVユーザーにとって吉報だが、EV初心者にとっては、使い方の難易度が高まる面もある。

 昨年経産省が示した「充電インフラの整備促進に向けた指針」では、「電力量に応じた課金(従量制)を2025年度から実現する」となっているが、充電器の性能表示も、できるだけ早期にわかりやすくすべきである。

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